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レイクス戦記  作者: ゆう
ゴブリンの襲来
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ゴブリンの影

重厚な執務室の扉が、急かすように叩かれた。

「失礼いたします!」


影の黒衣に身を包んだ伝令が、床に膝をつく。

「北の砦より急報――ゴブリンの群れ、二千が国境に現れました! 砦は兵五千を擁しており、直ちに落ちることはございません。しかし……奴らは統率を保ち、軍勢として行動しているとのこと!」


空気が一気に張り詰める。


「二千……」ナツキが呟き、顔を引きつらせた。

クロエの犬耳がぴんと立ち、エリカはヴィーナの袖をぎゅっと握る。

レナは眉を寄せ、盾に手をかけたまま一歩前に出た。


レイクスは静かに問いかける。

「……それだけか?」


伝令は息を整え、さらに低い声で告げる。

「影の網に別の報せがございます。アルディア全土に二十万のゴブリンが押し寄せているとのこと。この二千は、その前衛に過ぎませぬ」


「……二十万!?」

室内がざわめいた。ナツキが蒼ざめ、エリカは小さく悲鳴を上げる。


ヴィーナが思わず声を張った。

「お父さん! 私も砦で聞いたの! 本当に二十万って……信じられない数で! だから、マルターレス騎士団も慌てて戻っていったんだよ!」


ゼノが頷き、短く言葉を添える。

「確かに。砦の公式伝令にはそこまで含まれまいが……裏の報せと彼女の証言が揃えば、疑う余地はない」



レイクスは椅子に深く腰を下ろし、三柱を見渡した。

「……さて。どう動くべきか」


まず一歩前に進んだのは、灰銀の髪を撫でつけた執事セバスだった。

「伯爵様。砦は王国の防衛拠点。援軍を送るか否かは、王城が決するべき事柄にございます。

 我らが勝手に兵を動かせば、越権の謗りを受けましょう」


静かながら重い言葉に、室内の空気がさらに沈む。


次に、黒鋼の竜鱗鎧を纏ったアルトミュラーが低く唸った。

「だが国境に二千が姿を現したのは、口火にすぎぬ。砦が持ちこたえても、後に続く大軍が雪崩れ込むのは必定。

 我が竜騎兵五百をもってすれば、敵を叩き潰すことは可能だ!」


その視線が一瞬、ヴィーナの隣に控えるレナへと吸い寄せられる。

盾を抱き、凛と立つ彼女の姿に胸がざわめく。

(……なんだ、この感覚は)

普段は決して揺るがぬ「竜壁」の心臓に、不意に熱が走った。


ゼフィールがその揺れを見逃さず、影の中で口元を吊り上げる。


「正面から叩くか……あるいは」

黒衣の影が一歩前に進む。

「我ら〈黒影一族〉をもって砦の外縁で敵を削り、時間を稼ぐこともできます。

 二十万の本隊を前に、表に出て力を晒すのは得策ではない」



三者三様の意見が出揃い、室内は重苦しい沈黙に包まれた。

仲間たちは息を呑み、ヴィーナは拳を握りしめて父の顔を見つめる。


レイクスは目を閉じ、長く息を吐いた。

次に発せられる言葉が、この場の全てを決定づけることを、誰もが理解していた。


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