秘密の打ち明け話
秘密の打ち明け話
リュミナの街路は白石の壁が光を返し、窓辺に咲いた花々が彩りを添えていた。
参道には巡礼者と行商人が行き交い、祈りと笑いが混ざる活気に満ちている。
◇
「ねぇ、ヴィーナ」
セリスが隣で微笑む。
「今日が初めてなのに、なんだかずっと前から知ってる気がする」
「……わかる。私もそう」
ヴィーナは頬を緩めて答える。
「一緒に歩いてると、不思議と安心するんだ」
二人は露店で並んで焼き菓子を選び、笑い合いながら街を巡った。
まるで昔からの友達のように自然に。
◇
「……ねえ、ヴィーナ。内緒の話、してもいい?」
セリスが足を止め、少し赤い顔で問いかけた。
「うん、もちろん」
「私、好きな人がいるの」
「ほんと!? わぁ……素敵だね!」
ヴィーナが思わず声を弾ませる。
セリスは両手を胸に当て、恥じらいながら続けた。
「もし一緒になれたらいいなって思ってる。
だから……その人のお屋敷で暮らしてるの」
◇
「えぇぇ!?」
エリカが両手で頬を押さえる。
「すごい! セリスちゃんの恋バナ!」
「おいおい、急に爆弾投下だな」
ナツキが肩をすくめ、レナは「……青春ね」と呟く。
クロエは短く「いいことだ」と言い、
ヴィーナは目を輝かせてセリスの手を握った。
「セリスがそう思えるなら、きっとその人も大事にしてくれるよ!」
リュミナの広場は、白石の噴水と色鮮やかな花々で彩られていた。
セリスが通るたびに、子どもたちが「セリスお姉ちゃん!」と駆け寄り、笑顔で手を振る。
「すごいね、セリス」
ヴィーナは目を丸くした。
「みんなに慕われてるんだ」
「ただ、一緒に遊んだり、勉強を手伝ったりしてるだけだよ」
セリスは照れくさそうに笑う。
◇
後ろで仲間たちが小声で囁く。
「ほんとに姉妹みたいだな」ナツキ。
「……ヴィーナがあんな顔するの、珍しいわね」レナ。
「見ててほっこりする」エリカ。
クロエは無言で頷くだけ。
街の花壇の前で立ち止まったセリスが、当たり前のように口にした。
「私、ずっとヴァルトニアのお屋敷で暮らしてるの。」
◇
「……えっ!?」
ヴィーナは足を止め、驚きの声をあげた。
「この国にヴァルトニアのお屋敷があるの?」
「ちょ、ちょっと待て!」
ナツキが真っ先に声を張り上げる。
「それってつまり……セリス、お前は“あのヴァルトニア”に住んでるってことか!?」
「えぇぇ!? 本当に!?」
エリカは飛び上がらんばかりに叫び、両手をばたばたさせる。
「すごい……セリスちゃん、そんなすごい所に!?」
レナとクロエは一瞬黙り込み、静かに言葉を落とす。
「……事実ならただ事じゃないわ」
◇
セリスはきょとんとした笑みを浮かべ、小首を傾げる。
「え? 普通のことじゃないの?」
仲間たちは一斉に頭を抱え、場の空気は一気に混乱へと傾いた。
大聖堂を出て少し歩いた後。
仲間たちは露店で買い物をすると言い残し、ヴィーナとセリスを二人きりにしてくれた。
街の小さな庭園。
白いベンチに並んで腰を下ろすと、陽光に照らされた花々の香りが優しく風に乗った。
◇
「さっきは……ごめんね。みんな、すごく驚いてたから」
ヴィーナが頬を赤らめながら切り出す。
セリスはくすりと笑い、首を振った。
「大丈夫。私にとっては本当に“普通”だから。
その人のお屋敷で過ごすのが、当たり前の日常なんだもの」
「……普通、か」
ヴィーナは少し目を伏せた。
「私なんて……ヴァルトニアのこと、名前しか知らなかった。
お父さんも、ずっと帰ってなかったし」
◇
セリスは小さく髪飾りを撫で、柔らかく微笑んだ。
「でも……その人と一緒にいるとね、不思議と安心するの。
そばにいるだけで、心が穏やかになる。
……だから“好き”って言葉しか浮かばなかったの」
「……!」
ヴィーナは一瞬言葉を失った。
(やっぱり……セリスにとって“その人”は……)
◇
けれど次の瞬間、セリスが照れくさそうに笑いかけてきた。
「ヴィーナもきっと、その人に守られてきたんだよね。
だから……私たち、似てるのかもしれない」
「……そうだね」
ヴィーナの胸にじんわりと温かさが広がる。
「私、お父さんに拾われて……ずっと、溺愛されてきたから」
「ふふ、いいなぁ」
セリスは小さく身を寄せ、肩を軽く触れさせてきた。
「大切にされるのって、すごく幸せなことだよね」
◇
二人は花々の香りに包まれながら、ただ並んで笑い合った。
まるで光そのものが二人を抱きしめているように、穏やかで甘い時間が流れていった。




