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レイクス戦記  作者: ゆう
ゴブリンの襲来
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大聖堂の邂逅

大聖堂の邂逅


大聖堂の奥、聖壇前の広間には、七色の光が差し込み、静謐な空気が漂っていた。

ヴィーナは思わず立ち止まり、息を呑む。


「……本当に、光に包まれてるみたい……」


「ええ……すごい」

隣に立ったのは、一人の少女だった。


淡い金髪が陽光を受けて銀に輝き、蒼に翠を帯びた瞳がまっすぐにヴィーナを見返す。

胸元には小さな香草袋。柔らかな香りがほのかに漂う。


「私はセリス。巫女見習いとして、ここで祈りを学んでいるの」


ヴィーナは思わず微笑んだ。

「私はヴィーナ。……やっぱり、すごいね、この大聖堂」


「うん。ここに立つと、自分が小さく感じる。けど、それが不思議と怖くないの」

セリスの言葉に、ヴィーナは強く頷いた。

「わかる。なんだか守られてるみたいで」


二人は初めて会ったとは思えぬほど自然に、互いに言葉を交わしていた。



その背後に控えていた壮年の男――セバスが、一歩下がって二人を見守っていた。

整った銀髪、深みのある眼差し。

ただ立っているだけで、場の空気を引き締める存在感があった。


ゼノがその姿を目にし、ふっと息を呑む。

「……まさか……」


「ゼノさん?」

クロエが小さく問いかける。


ゼノは目を細め、記憶を探るように呟いた。

「かつて……ヴァルトニア騎士団の入団試験で、試験官を務めていた男がいた。

 風と土を操り、杖と剣を併せ持つ者……名は――セバス」



ゼノの言葉に、仲間たちは驚きの視線をセバスへと向ける。

だが当のセバスは眉ひとつ動かさず、静かにセリスの傍らに立っていた。


二人の少女が語らう背後で、ゼノは一歩前へ進み、銀髪の壮年へ視線を向けた。


「……あなたは、もしかして――セバス殿ではありませんか?」


低く抑えた声だったが、その響きには確信があった。

セバスはゆっくりと視線をゼノに移す。


「……」


「私はゼノ。かつてヴァルトニア騎士団の試験を受けた者です。

 あなたが試験官を務めておられた姿を、今も覚えております」



仲間たちが驚きの目を向ける。


「えっ……ゼノさんが、受けた?」

ナツキが思わず声を漏らす。


レナも目を見開く。

「じゃあ、セバスさんは本物……」


クロエは静かに頷き、エリカは口を手で押さえた。



セバスは短く息を吐き、わずかに口元をほころばせる。

「……随分と昔の話を覚えているものだ」


その声音は落ち着いていたが、不思議と場の空気を和らげる力を持っていた。


「まさか、ここで再び名を呼ばれるとは思わなかったよ」



ゼノは深く一礼した。

「――やはり、あなたでしたか。かつて憧れた方に、こうして再会できるとは」


七色の光が差し込む大聖堂の広間。

祈りの歌声が遠くで響き、空気は静謐でありながら温かかった。


ヴィーナは改めて周囲を見渡し、ぽつりと呟く。

「……やっぱり、すごい場所だね。

 ここに立つと、自分が小さな存在だって思い知らされる」


セリスは隣で頷き、柔らかな笑みを浮かべる。

「うん。でも、それが不思議と怖くないの。

 むしろ、大きなものに守られてる気がして……安心できる」


「わかる……」

ヴィーナは瞳を輝かせ、セリスを見つめ返した。

「私も、同じことを思ってた」



エリカが背後で小声を上げる。

「なんか……二人、すごく気が合ってない?」


ナツキは苦笑しながら腕を組む。

「いや、雰囲気が似てるんだろうな。どっちも“光”に溶け込んでるみたいだ」


レナは半眼で呟いた。

「珍しいわね、ヴィーナが自然に笑ってる」


クロエは静かに頷き、ゼノは黙って二人のやりとりを見守っていた。



セリスは香草袋にそっと触れ、ヴィーナへ差し出すように見せた。

「これ、私のお守りなの。自分で縫ったの。……よかったら香りを」


ほのかな草花の匂いが広がる。

ヴィーナは驚いたように目を瞬かせ、思わず胸の奥を押さえた。


「……懐かしい……」


「え?」

セリスが首を傾げる。


ヴィーナは小さく息を吸い、かすかに笑みを浮かべた。

「ううん、なんでもない。……ただ、お父さんが持っていた香りに似てたから」


セリスの瞳がわずかに揺れる。

だが次の瞬間、彼女もまた微笑みを返した。


二人は見つめ合い、また自然に笑った。

まるで――長い時を越えて、再び巡り会ったかのように。


二人の少女が香草袋をきっかけに心を通わせる一方で、

少し離れた柱の影では、ゼノとセバスが向き合っていた。



「やはり、あなたはセバス殿だ」

ゼノは低い声で告げる。

「ヴァルトニア騎士団の試験官として立っていた姿、今でも忘れられません」


セバスはわずかに目を細めた。

「……懐かしい話を持ち出す」


「あなたの眼差しは、剣よりも重かった。

 一振りで斬り捨てるのではなく――心の芯を見透かすような……」


ゼノは自嘲気味に笑った。

「その眼差しに、私は耐えきれなかった。未熟ゆえに」


セバスは短く息を吐き、静かに首を振った。

「未熟を見抜くのも務めだった。

 だが――お前の剣は、臆せず振るわれていたはずだ」


ゼノは驚いて目を見開いた。

「覚えて……おられるのですか」


セバスは答えず、ふと視線を横に逸らした。



光の中で、楽しげに言葉を交わすヴィーナとセリス。

その姿を目にした瞬間、セバスの瞳がわずかに揺れた。


「この方は……」


声が漏れた。

思わず、といった調子で。


ゼノが身じろぎし、静かに答える。

「……お察しの通りです」


セバスの表情に、深い驚きと、抑えきれぬ畏敬の色が浮かんだ。

だが彼はそれ以上言葉を重ねず、ただ胸に手を当て、静かに頭を垂れた。



「……ならば、道を違えることはあるまい」

セバスは短くそう告げると、再び沈黙を守った。


その横顔は、光と影を併せ呑む者のものだった。



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