新たなる報せ
新たなる報せ
砦に束の間の安堵が漂い始めた、その瞬間だった。
伝令の蹄音が石畳を響かせ、泥まみれの兵が駆け込んでくる。
「報告! ゴブリン領より二十万の軍勢が――アルディアへ侵攻中!」
広間が一気に凍りついた。
「に、二十万……!?」
「桁が違う……どうやって止めるんだ……」
「人の数をはるかに超えているぞ……!」
兵士たちは顔を青ざめさせ、互いにしがみつくように声を荒げた。
◇
「二十万……」
ナツキは背筋を壁に預け、声を失う。
「八千どころじゃねえ……国ごと押し潰される規模じゃねえか」
レナは唇を噛みしめる。
「これは“侵略”じゃなくて“殲滅”。戦略そのものが変わるわ」
エリカは怯え、ヴィーナの腕に縋った。
「ゴブリンって……そんなに……」
クロエは低い声で言った。
「数だけで国を呑み込む軍勢……普通なら抗うすべはない」
ゼノは目を閉じ、短く言い放つ。
「……この国が生き残れるかは、上に立つ“絶対者”の裁断次第だ」
その言葉に、仲間たちは息を呑む。
ヴィーナの胸は大きく鳴った。
父の名と重なるその響き――
「ヴァルトニア」という言葉を、誰も軽々しく口にできない理由を、改めて思い知らされた。
砦に駆け込んだマルターレス騎士団の将校が声を張る。
「全軍に通達! 本拠アルカディアへ急ぎ帰還する!」
ざわめきが広がった。
「マルターレス騎士団まで戻るのか……?」
「国の心臓を守るためか……」
◇
ゼノは黙って命を聞き、そして一行の前に立つ。
「……私は残ります」
「えっ!?」
ヴィーナが驚きの声を上げた。
「ゼノさん、それって……」
ナツキも目を見開く。
ゼノはまっすぐにヴィーナを見据えた。
「あなたを守る役目を、私は命じられています。
本隊が戻ろうとも、その誓いは揺るがない」
「わ、わたしなんて……!」
ヴィーナは慌てて首を振る。
だがゼノは微動だにしなかった。
「マルターレス家の誓いにかけて、私はあなたを護る。それが私の戦場です」
◇
「心強いわね」
レナが小さく笑い、
「……頼もしい」とクロエが続ける。
エリカはきらきらと目を輝かせた。
「ね、ヴィーナ! よかったね!」
「ちょ、ちょっと……! わたし、そんな特別じゃないから!」
真っ赤になって慌てるヴィーナを見て、皆が笑った。
ゼノだけは、静かに微笑んでいた。
その瞳に宿るのは誇りと覚悟。
――己が命を賭してでも、護るという不動の誓いだった。




