旅路の安寧
第六話 旅路の安寧
魔物との激闘を終えた後も、街道を覆う霧は晴れなかった。馬車の中に戻った一行は、誰もが安堵の息をつく。レナは冷静に武器の手入れを始め、ナツキは興奮冷めやらぬ様子で、今日の戦闘について熱く語っていた。
「いやー、レナの盾受けは相変わらずすごかったな! 俺の剣の腕も、クロエとの連携も、冴えに冴えてたぜ!」
ナツキが自分の手柄を誇らしげに語る。クロエは少し呆れたような顔で、淡々とツッコミを入れた。
「ナツキさん、さっきの剣は、当たる直前に魔物がバランスを崩したから、なんとか当たっただけです。私の双剣がなければ、今頃地面に転がっていたのはナツキさんですよ」
「おいおい、そんなこと言うなよクロエ! あれは俺とクロエの完璧な連携だったってことだろ! な、レナ?」
ナツキが助けを求めるようにレナに視線を送るが、レナは無言で頷くのみ。
「ナツキさん、私はあなたの剣の威力は信じています。ただ、クロエさんの言う通り、少し落ち着いてください。先走って、また怪我をしたら大変ですから」
ヴィーナが優しく言うと、ナツキは肩をすくめて笑った。
二人の会話に、エリカはまだ怯えた顔をしていたが、ヴィーナはそっと彼女の隣に座り、水の入った水筒を差し出した。
「エリカちゃん、大丈夫だよ。もう、魔物はいないから」
エリカはヴィーナを見上げ、震える手で水筒を受け取った。一口水を飲むと、少し落ち着いたのか、小さな声で呟いた。
「…ありがとう、ヴィーナさん。それと…その、さっきは…助けてくれて、ありがとう」
「ううん、私、何もしてないよ。エリカちゃんが頑張ったんだよ」
ヴィーナがそう言うと、エリカは首を振った。
「ヴィーナさんが…私の頭に手を当ててくれた時、心の中に差し込んだ光が見えたんです。あの光のおかげで、怖くなくなりました」
ヴィーナは、自分の聖魔法がエリカの心にまで届いたことを知り、驚きと喜びを感じていた。レイクスに教えてもらった聖魔法は、ただの治癒魔法だと思っていたが、それはもっと奥深い力なのかもしれない。
夕方になり、ようやく霧が晴れ始めた。馬車は再びゆっくりと進み、一行はフォルネリア辺境侯国へと続く街道を順調に走る。夕日を浴びた森の木々が、暖かく優しい色に輝いている。
その日の夜の野営は、前夜とは打って変わって、賑やかなものになった。ヴィーナの作った温かいスープを皆で囲み、今日の戦闘の反省をしながらも、笑い声が絶えない。
ヴィーナは、温かい焚き火を囲む仲間たちの顔を一人ひとり見つめた。レイクスとの二人だけの旅も楽しかったけれど、みんなとの旅は、こんなにも心が温かくなる。一人では成し得なかったこと。一人では見えなかった景色。この旅は、新しい自分を見つけるための旅なのかもしれない。




