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レイクス戦記  作者: ゆう
戦乱の幕開け
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砦の門前

砦の門前


夕暮れ。

赤い光に照らされながら、馬車は前線の砦に到着した。

壁上から矢が構えられ、門前の兵士たちが槍を突き出す。

その緊張は息苦しいほどに張りつめていた。


「止まれ!」


だがその声を切り裂くように、ゼノが一歩前へ出る。

「この方々はマルターレス家の客人。私が護衛を務めている。通せ」


その一言で槍は収められ、砦に流れる空気が変わった。



「すごい……」

ナツキが小声で呟く。

「ゼノさんの声だけで場が落ち着くなんてな」


「……でも落ち着いてない人、いるわよ」

クロエが顎をしゃくる。


視線の先――ローブを整えたヴィーナが門の前に立っていた。

夕陽を浴びた金の髪が光を散らし、その瞳にはまっすぐな強さが宿っている。


兵士たちが思わず息を呑む。

「……あの娘は……?」

「マルターレス家の客人らしいが……ただ者じゃないな」



「ほら、やっぱり見られてる」

レナがわざとらしく囁く。


「ヴィーナってば、オーラ出ちゃってるんだよ!」

エリカがにこにこと背中を押す。


「ちょっ……ちょっと待って! な、何でそんなこと言うの!?」

ヴィーナは真っ赤になって慌てふためき、ローブの裾をぎゅっと握った。


その姿に、兵士たちが逆に表情を和らげてしまう。

「……かわいい……」

「いや、守りたくなる……」



ゼノは小さく咳払いし、場を締めた。

「――道を開けろ」


鉄門が重々しく開いていく。

ヴィーナはなおも顔を赤くしたまま、仲間たちに押されるように砦へと足を踏み入れた。


その背を見送る兵たちは、思わず槍を立て、無言で敬礼していた。


砦の内部は、外よりさらに緊迫していた。

伝令が駆け抜け、兵が武具を磨き、弓兵が塔に上がっていく。

夜を迎える前にできる準備はすべてしておく――そんな必死さが漂っていた。



「……ここが最前線……」

エリカが思わず声をひそめる。


「本当に戦の空気だな」

ナツキは槍を持つ兵を見て、ごくりと唾を飲む。


レナは冷静に周囲を観察しながら、兵の配置を目で数えていた。

「守りは厚いけれど……士気が重いわね」


クロエは静かに頷いた。

「負け戦を覚悟してる顔、だな」



その時、通りすがりの兵士の声が耳に入った。


「聞いたか? 昨夜のことだ」

「まさかヴァルトニア騎士団が出たなんてな……」


ヴィーナは思わず足を止めた。


「え……?」



近くにいた若い兵に、ゼノが声をかける。

「詳しく話せ」


兵は驚いて姿勢を正し、声を低めた。

「はっ……昨夜、敵の先発八千が……跡形もなく消えました。

 炎と灰だけが残り、生き残りは確認されず……」


「……やはり」

ゼノが眉を寄せる。


クロエが静かに問う。

「それを成したのが――ヴァルトニア騎士団だと?」


兵はうなずき、さらに声を潜める。

「はい。姿を見た者はほとんどいません。

 ただ、“旗印”を見たと……指輪と、揺れる香草袋の意匠を」



「……指輪と……香草袋……」

ヴィーナは小さくつぶやいた。

胸の奥にざわめきが広がる。


――父の名と、彼が身に着けていたもの。

偶然とは思えない符号。


エリカが不安げに隣をのぞきこむ。

「ヴィーナ……大丈夫?」


「……うん」

ヴィーナはぎこちなく笑ってみせた。

けれど胸の奥で鳴る鼓動は、嘘のように大きかった。







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