夜半の狩り
夜半の狩り
レクシア軍本陣。
焚き火がちらつき、兵の眠気と疲労を照らし出す。
砦への攻めは昼から続き、勝利を疑わぬ将兵たちは粗末な食をとりながら休んでいた。
――その夜半、荒野の闇を切り裂く三つの影が動いた。
◇
「久しいな。こうして三人で並ぶのは」
セバスが杖を肩に担ぎ、風を弄ぶように呟いた。
レイクスは口元に笑みを浮かべる。
「……あの時は北の山で狼狩りだったな。ゼフィールが獲物を追い詰めすぎて、俺たちの出番がなくなった」
「……事実を言わなくてもいい」
ゼフィールが低く返す。その声に、セバスが小さく笑った。
「獲物を狩り尽くすのは昔も今も変わらんさ」
炎の光を遠くに見据えながら、レイクスが剣を軽く振る。
「……さて、今夜の獲物は二万か。久々に体が温まる」
三人の足取りは、まるで散歩のように軽やかだった。
◇
最初に風が裂けた。
セバスの杖剣が振り抜かれると同時に、地を割る土壁が敵兵を分断し、突風が焚き火を吹き消す。
暗闇に呑まれた列は、悲鳴を上げる間もなく崩れた。
次いで影が揺らぐ。
ゼフィールの姿が消えたかと思うと、敵将の背後から短剣が閃き、指揮官の喉が音もなく裂けた。
「な、何者だ――!?」
幻影が敵の目を惑わせ、味方同士が剣を振るう。
そして最後に、剣が走る。
レイクスの剣筋はただの一撃で列を断ち割り、振り下ろすたびに兵の群れが崩れる。
炎も雷もない。
ただ一振りの剣だけで、二万の軍勢が脅威を悟った。
「馬鹿な……数では優っているのに……!」
「斬られる……速すぎて見えない……!」
絶叫は次第に悲鳴へ、やがて沈黙へと変わっていった。
◇
「ふむ……やはり狩りと同じだな」
セバスが土煙の中で杖剣を払う。
ゼフィールは短く息を吐き、返す。
「……獲物が多すぎるだけ」
レイクスは笑みを浮かべ、剣を鞘に収めた。
「いや、たまには悪くない。夜の散歩には丁度いい運動だった」
そして二人を見やり、少し声を落とした。
「……アルトミュラーはどうだ? 任せてから、少しは強くなったか?」
セバスとゼフィールは顔を見合わせ、小さく笑う。
その笑みは――まだ答えを出すには早い、と言っているかのようだった。
◇
その夜、レクシア本陣は炎に包まれ、完全に沈黙した。
ただ、「三人の影が夜を狩った」という噂だけが、恐怖と共に戦場を駆け抜けていった。




