烈火の突撃
第11話 烈火の突撃
日中、ベルディア砦。
荒野を埋め尽くすようにレクシア軍の先行部隊八千が押し寄せた。
矢の雨、投石、そして破城槌。
分厚い石壁は耐えてはいたが、砦の外郭はすでに傷だらけとなっていた。
「持ちこたえろ! この砦こそ、王都を守る盾だ!」
第2騎士団の団長の怒号が響く。
兵たちは必死に防いだ。だが――攻撃は途切れることがなかった。
◇
夕刻から夜半にかけても、攻撃は続いた。
休む間もなく矢が降り、砦を囲む炎の光はまるで昼のように明るかった。
「もう限界だ……」
「敵の数が多すぎる……!」
疲労と恐怖に、兵たちの顔色は青ざめていく。
誰もが崩れ落ちるのは時間の問題だと思っていた。
◇
――その時だった。
闇を裂く角笛の音が響き渡る。
荒野の奥から轟く蹄の音。
「……なにが起きてる……?」
「敵の後列が……崩れていく……」
砦の見張り台から見えるのは、闇に揺らめく炎だけ。
赤黒い光が一瞬ごとに走り、その度に敵陣が裂けて消えていく。
「……人の戦いなのか、あれは……?」
「わからない……ただ、敵が壊れていく……」
◇
その炎の明滅の中、ひときわ鮮烈に浮かび上がったものがあった。
翻る旗。
そこに刻まれていたのは――
銀の輝きを返す指輪と、風に揺れる香草袋を模した意匠。
誰もが一瞬、それを見たと確信した。
次の瞬間にはまた闇に溶け、炎と悲鳴だけが荒野を満たした。
◇
夜明けを待たず、戦場は沈黙した。
八千の軍勢は炎と突撃に呑まれ、灰燼と化す。
残された者たちは、ただ呆然と夜空を見上げるだけだった。
――それが何者であったのか、確かに見た者はいない。
だが、旗に刻まれた意匠の記憶だけが、戦場に生き残った兵の心を震わせていた。
◇
夜明けが近づく頃、荒野の奥に設けられた司令幕。
ひとりの騎士が跪き、低く声を響かせた。
「報告いたします――レクシア軍先行部隊八千、殲滅。
被害は……ありません」
静まり返る幕内。
アルトミュラーは目を閉じ、短く息を吐いた。
「……当然だな」
その声音には誇りと共に、なお消えぬ緊張が漂っていた。
彼らが恐れるのは敵ではなく、命を賭して戦うその者たちの存在そのものだった。
アルトミュラーはゆるやかに立ち上がる。
「進軍を継続せよ。ヴァルトニアの旗は主の為に!」
◇
戦場に残るのは、炎に照らされた灰燼と――
風に翻る旗印。
指輪と香草袋を織り込んだその意匠は、闇を裂き、見た者すべての心に畏敬を刻みつけていた。




