国境の手前へ
国境の手前で
南へ進んだ行軍は、夕刻には国境の山影を望む地点へと到着した。
吹きすさぶ風の冷たさに、兵たちの表情は固い。
エルディナはすぐそこ――だが、その先に待つのは戦場だった。
◇
「……緊張してる?」
ヴィーナが歩調を合わせていた若い兵に声をかける。
「えっ……い、いえ! そんなことは……!」
慌てて背筋を伸ばすが、その声は震えていた。
ヴィーナは小さく笑みを浮かべる。
「でも、怖いって思うのは当たり前だよ。私だって同じだから」
兵は目を丸くし、やがて小さく頷いた。
「……ありがとうございます」
その会話を耳にした隣の兵も、思わず苦笑をもらす。
「姫君に慰められるとはな……」
「姫君じゃない。ただのヴィーナだよ」
彼女の即答に、兵たちの表情が少しだけ和らいだ。
◇
ナツキが肩をすくめて言う。
「ったく……緊張してる連中を一瞬でほぐすんだからな。やっぱりただ者じゃねぇよ」
「本人は自然体なんだけどね」
エリカが微笑み、クロエは静かに頷いた。
「……だからこそ、兵たちは惹かれるのよ」
レナは小声で付け加える。
「言葉よりも、振る舞いで人を動かす……それが彼女の強さかもしれない」
◇
そのとき、前方から角笛が鳴る。
国境の見張り台が見えてきた。
リストール団長の号令が響き、隊列が引き締まる。
だが兵士たちの足取りは先ほどより軽かった。
――一人の少女の何気ない言葉が、胸の奥に小さな火を灯したからだ。




