セリスの夜
幕間 セリスの夜
――あの門をくぐってから、まだ半日も経っていないのに。
胸の中では、何日分もの出来事が一度に押し寄せたみたい。
広間に足を踏み入れた瞬間、思わず息を呑んだ。
高い天井、赤い絨毯、壁に並ぶ燭台の灯り。どれも見たことのないほど荘厳で、私は立ちすくむしかなかった。
並べられた宝具の数々も忘れられない。
光を放つ杖、深い水の響きを秘めた指輪、竜の炎を宿すと伝えられる剣――。
孤児院で夢の中だけで想像していたようなものが、ここには当たり前のように置かれていた。
でも、不思議。
本当に怖かったのは、あの煌びやかさじゃなかった。
“こんな場所に、自分なんかが居てもいいのか”――その気持ちが、何度も胸を締めつけた。
そんなとき、執事のセバスさんが「ご安心を」と言ってくれた。
その声は、まるで私の不安を全部見透かしていたみたいに優しくて。
そして、騎士団長のアルトミュラーさんが短く「任せろ」と告げたとき、なぜか本当に守られているように感じた。
……気づけば、胸の香草袋を何度も握りしめていた。
あの匂いが、どんな煌めきよりも私を落ち着かせてくれた。
そして、レイクス様。
多くを語らないのに、隣にいるだけで“ここに居ていい”と思わせてくれる。
その沈黙が、言葉以上に私の心を支えてくれていた。
――だから、決めた。
私は、この屋敷で生きていく。
ただ守られるだけじゃなく、私自身の力で誰かを支えられるようになりたい。
香草袋のように、そばにあるだけで心を温められる存在に――。
不安もある。けれど、それ以上に胸の奥が高鳴っている。
これから先、どんな未来が待っていても――私はもう、逃げない。
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