戦乱の幕開け
43話 戦乱の幕開け
――エルムガルド歴八百七十三年。
曇天を裂く鐘の音が、レクシア神聖国の神都バラルカに轟いた。
「唯一神アル=ディオスの御名において――異端を討つ!」
教皇アルシオンの宣言は、聖戦士団の軍旗を翻させ、十万の兵を国境へと動かした。
銀甲冑をまとった聖騎士たちが整列し、神官たちが声を合わせて祈りを唱える。その響きは兵の心を奮い立たせ、同時に「女神信仰者=不浄」という烙印を押した。
「異教徒を狩れ! 女神に仕える者どもを、一人残らず!」
聖堂歩兵が槍を鳴らし、巡礼護衛旗の騎馬が砂煙を巻き上げて駆ける。村落を蹂躙し、祈りの泉を汚しながら彼らはエルディナ聖王国の地へ雪崩れ込んだ。
――国境砦。
「第二騎士団、盾列を敷け! 奴らにこの砦は落とせん!」
鋼鉄の兜を被ったゼオ・ハルバート団長が怒号する。彼はエルディナ北辺を預かる実直な将であり、女帝に仕える忠臣だった。
盾と槍が一斉に突き立てられ、砦を守る二千の兵が咆哮を返す。
空には白翼のヴァルキュリアが舞い、ペガサスの嘶きが戦場の空気を震わせた。
「聖女の加護は我らと共にある!」
聖騎士団長フィアナ・ブライトウィングが光翼の槍――ランス・オブ・グローリーを掲げる。槍先がまばゆい光翼を広げ、兵たちの士気はさらに高まった。
そして――。
雷雲が遠くの空に広がり、黒き影がひとり、戦乱を見下ろしていた。
外套の裾を風に翻し、黄金と赤の瞳が閃光に照らされる。
――レイクス=ヴァルトニア。
彼の存在だけが、轟く雷鳴よりも深く、戦場の未来を告げていた。




