表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイクス戦記  作者: ゆう
旅立ち
41/99

黒雷の髪飾り

第五十二話 黒雷の髪飾り


マルターレス騎士団の広間。

現当主リストールの厳しい問いに答えた後も、重苦しい沈黙は続いていた。


ヴィーナは胸の奥で違和感を抱いていた。


――どうして「名を継ぐ」なんて話になるの?

――お父さんはまだ生きているのに。


たった一年前、レイクスは「エルディナに行く」と言い残して旅立った。

その後ろ姿は確かに生きた父そのもの。

なのに「名を継ぐ」などという話は、彼女には到底理解できなかった。


その時だった。


金髪に差した髪飾りが、不意に閃光を帯びた。


銀細工に刻まれた紋様が光を反射し、雷のようにきらめいて――黒雷の意匠を描き出す。


「黒雷……!」

騎士たちの間にざわめきが広がる。


だが当のヴィーナは、きょとんと首を傾げた。

「え? これですか? 普段からつけてる、ただの髪飾りですよ。特別なものだなんて思ったことありません」


場の温度差に、さらに騒然とする広間。

けれどヴィーナにとっては、本当にただの日常の一部でしかなかった。


ふと彼女は、旅の途中でカイルから聞いた昔話を思い出した。


「……剣と誓いで国を救った英雄――リースバルト。

もし、その人の一族がまだいるなら……会ってみたいな。

お父さんが何を託したのか、わかるかもしれないから」


純粋なその一言に、広間はさらに揺れ動いた。


「リースバルトの一族に、会いたい――か」

リストールはその言葉を繰り返し、鋭い瞳を細めた。


ざわめきの中、列の端にいた老騎士ゼノが一歩前へ進み出る。


「待て……今の言葉。まるで――レイクス様が生きているかのようではないか」


広間が水を打ったように静まり返る。

ヴィーナは唇を噛みしめ、やがてはっきりと頷いた。


「はい。お父さんは生きています。一年前、“エルディナに行く”って言って旅立ちました」


衝撃の告白に、騎士たちの間でどよめきが走る。

リストールでさえも一瞬だけ瞳を揺らした。


だがヴィーナはさらに言葉を続けた。


「……お父さんから、“リースバルトの一族に渡すものがある”と託されました。

でも――証がないまま渡すことはできません。その人が本当に“一族”だとわからなければ」


その真剣な声音に、再び広間が静まる。


やがてヴィーナは、胸の奥に隠していた本音をぽろりと漏らした。


「……でも、こんなの、お父さんが直接渡してくれればよかったのに」


「ちょっ!?」「ここでそれ言う!?」

ナツキとレナが同時に声を上げる。


「しっ、静かにっ! 騎士団本部だよここ!」

エリカが半泣きで叫び、クロエは額に手を当てて嘆息した。


厳粛な場に突如として生じた温度差に、広間の騎士たちも言葉を失った。


重苦しい空気を断ち切るように、リストールの声が響く。


「……マルターレス家にとってヴァルトニアは王家よりも上位に立つ、絶対の存在。

その血脈が現れたなら――我らマルターレスは剣を捧げるのみ」


その宣言に応じ、百余の騎士が一斉に膝をついた。

二百年ぶりの誓いの場。

空気は鋼のように張り詰め、誰もが息を呑んだ。


ただ一人――ヴィーナを除いて。


「……む、無理ですっ!!」


裏返った声が広間に響く。


「わ、わたし、そんな大役できません!

お父さんは生きてるんです! 娘のわたしが代わりになるなんて、無理です!!」


叫ぶや否や、ヴィーナは広間から逃げ出した。

だが慌てすぎて足を取られ、


ドテンッ!


見事に転倒。


「「「…………」」」

広間に凍りつく沈黙。

次いで仲間たちの声が炸裂する。


「おいぃ!?」「ここで!?」「ヴィーナぁぁ!」


レナは額を押さえ、ナツキは腹を抱え、エリカは半泣きで叫び、クロエは冷ややかに肩を竦めた。


緊張感は吹き飛び、広間の騎士たちまで呆気にとられる。

一部の若い騎士が肩を震わせ、失笑が広がった。


リストールはしばし沈黙し、やがて深く息を吐いた。


「……なるほど。その正直さ、その逃げ腰こそ、誓いを汚さぬ証だろう」


厳粛と笑いが交じり合う場に、二百年越しの誓いは思いもよらぬ形で息を吹き返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ