団長の問い
第五十一話 団長の問い
王都の中心部、大路の先に、それは姿を現した。
白亜の石壁と高い塔。
掲げられたのは、アルディア王国の双章旗と、
その隣に翻る**《誓いの短剣》と《風花の髪飾り》の紋章旗**。
マルターレス騎士団本部――国の誇りを象徴する場所。
導かれるまま門をくぐった瞬間、空気が変わった。
整列する騎士たちの視線、槍を掲げる音、訓練場で響く掛け声。
すべてが整然とし、国の心臓がここに脈打っていた。
「……空気が違うわね」
クロエが低く呟く。
「一歩入っただけで、背筋が伸びる感じがする……」
エリカは小さく肩を抱く。
「なんか……場違いな気がするんだけど」
ナツキは落ち着かない様子で辺りを見回し、
レナはただ前を歩くアンドロの背に視線を注ぎ、
「ここからが本番よ」と短く告げた。
***
やがて、広間の奥の大扉が重々しく開かれる。
「――団長、御到着!」
号令とともに現れたのは、壮年の騎士。
豪奢なマントを纏い、数々の戦場をくぐった威容を宿す男。
マルターレス家現当主にして、騎士団を束ねる者。
リストール・マルターレス。
その鋭い眼差しが、まっすぐヴィーナを射抜く。
「……その布。間違いない。
そして、貴女は“ヴァルトニア”の名を口にしたと聞く」
低く響く声が、広間全体を震わせる。
「問おう――その名を、誰から授かった?」
静寂。
視線を浴びながら、ヴィーナは胸の奥で父の面影を思い出す。
厳しくも優しい瞳。
一緒に食卓を囲んだ温もり。
どこの誰であろうと――自分にとって、唯一の「父」。
ヴィーナは迷わず答えた。
「……お父さんから、です。
お父さんの名前は――レイクス・ヴァルトニア」
ざわめきが走る。
騎士たちの表情には畏怖と動揺、そして期待が入り混じった。
だがヴィーナは怯まず、続けて言葉を放った。
「けれど……私は、“その名前”の重さをまだ知りません。
だからこそ、知りたいんです――お父さんが何者なのかを。
けど、名がどうであれ――
私はレイクスの娘であることを、誇りに思っています」
その声は、震えながらも広間に届いた。
「だから、私は――ヴィーナ・ヴァルトニアです!」
仲間たちは息を呑んだ。
「ヴィーナ……」
エリカが目を潤ませ、クロエは静かに頷く。
「……立派な答えだわ」
レナの声は低くも、確かな誇りを帯びていた。
ナツキは拳を握りしめ、
「よっしゃ……それでこそヴィーナだ!」と小さく笑う。
広間に再び静寂が戻る。
リストールは、少女の言葉をしばし受け止め――
やがて、深く瞳を細めた。
「……なるほど。確かに聞いたぞ、ヴィーナ・ヴァルトニア」
それは、騎士団長としての承認であり――
少女の名を、この国が初めて正式に受け止めた瞬間だった。
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