騎士の礼と共に歩む者たち
第五十話 騎士の礼と共に歩む者たち
ヴィーナの返答――「行きます」という言葉が、静かに訓練場の空気を変えた。
だが、その場にいたマルターレス騎士団副団長・アンドロ・ラースは、さらに一歩を踏み出す。
彼の視線は、ヴィーナの背後へ。
レナ、クロエ、ナツキ、エリカ――少女の旅路を共に歩んできた仲間たちへ。
そして、アンドロは何も言わず――
片膝を地に落とし、右拳を胸に当てた。
騎士の最上級の礼が、四人に等しく捧げられる。
***
「えっ!? ちょ、ちょっと待って!?」
ナツキが飛び退くように両手を振る。
「わ、わたしたち、そんな立場じゃないですからっ!」
エリカは顔を真っ赤にして慌てふためく。
「副団長……これは……?」
レナは困惑しながらも冷静を装い、視線を鋭くする。
クロエは額に手を当て、小さくため息をついた。
「……やっかいね。けど……あの人たち、本気よ」
「な、なんでこうなるのよ……!」
パーティーメンバーの狼狽は、訓練場の空気を大きく揺らした。
***
その光景を目にした若い騎士見習いたちは――ただ、言葉を失った。
「副団長が……旅人に跪いている……?」
「どういう……ことだ……?」
誰も笑わなかった。
それは驚愕であり、畏怖であり、
“騎士とは何か”を問い直される瞬間だった。
一人の見習いが、息を呑みながら呟く。
「……これが、“ヴァルトニア”という名の重さ……なのか……」
もう一人は、拳を握りしめて顔を伏せた。
「いや……違う。名だけじゃない。
彼女を支えた“仲間”にまで敬意を払う……
――それが、この国の騎士の誇りなんだ」
ざわめきは、次第に静かな決意へと変わっていった。
***
アンドロは、何も語らない。
ただ立ち上がり、胸に拳を当てて深く一礼する。
言葉よりも雄弁なその行動が――
仲間たちに対する最大限の敬意を示していた。
「……これ、もう引き返せないわね」
レナがため息まじりに肩を竦める。
「だな。もうここまで来たら、最後まで付き合うしかないっしょ」
ナツキが苦笑し、エリカが「が、がんばろうね……!」と必死に頷く。
クロエは静かに前に出て、騎士団に向けて一礼した。
「案内を、頼むわ」
アンドロは無言で頷き、騎士団の者たちが道を開く。
傾き始めた太陽が、石畳に長い影を落とす。
その中を、一行はゆっくりと歩き出した。
そして、それを目にした若き騎士たちの胸には――
新たな“誓い”が芽生え始めていた。




