旅の準備
第四十話 旅の準備
翌朝、フォルネリアの街は早朝から活気に満ちていた。一行は、それぞれの役割を分担し、アルカディア王国への旅の準備に取り掛かっていた。
レナは、ギルドでアルカディア王国の情勢に関する最新の情報を集めていた。歴史を重んじる国であるため、ヴァルトニア家に関する古い文献や貴族の系譜の情報も得られるかもしれないと期待している。手早く必要な情報を書き留めながら、これから始まる旅の壮大さに思いを馳せていた。
「よっしゃー! これだけあれば、しばらくは食いっぱぐれないぜ!」
ナツキは、市場で買った大量の保存食や燻製肉を抱え、満足げに笑った。彼女は旅費の半分以上を食料につぎ込み、エリカに「またそんなに…」と呆れられていたが、本人は全く気にする様子がない。
「でも、ナツキちゃんの嗅覚は確かだから、美味しいものがたくさん見つかってよかったわ」
エリカは、嬉しそうに微笑んだ。彼女は、日差しを防ぐための大きなつばの帽子や、魔導具の手入れに必要な油などを慎重に選んでいた。
クロエは、馬車の手入れを完璧に終えると、愛用のボウガンを手に取った。弦の張り具合や、矢じりの状態を一つ一つ確認していく。その無駄のない動きには、どんな状況でも冷静に対処しようとする、彼女の強い意志が表れていた。
ヴィーナは、宿の自室で、父がくれたローブを改めて見つめていた。それは、白色の滑らかな生地に、銀糸で草木や流れるような水の文様が繊細に刺繍された、美しいローブだった。
このローブは、昔、父から「私の友であるリースバルトからもらったローブだ」と聞いたことがある。そして、そのローブを、この刺繍の柄を気に入った私が、無理を言って譲り受けたものだった。
「…ヴァルトニア家。二百年前の英雄。父は、本当にその人だったのだろうか」
ヴィーナは、ローブをそっと抱きしめた。彼女の胸には、父の過去を知る旅への決意が、温かい光のように灯っていた。それは、父への愛着と、まだ見ぬ真実への、かすかな不安が入り混じったものだった。
準備を終えた一行は、翌日の朝、フォルネリアの街を出発した。彼女たちの新たな旅は、今、静かに始まっていた。




