宿での夜
第三十八話 宿での夜
宿に戻ると、食堂で夕食をとりながら、今日の出来事を振り返っていた。ナツキは、未だに興奮が冷めない様子で、大きな声で話している。
「いやー! まさか、ヴィーナがそんなにすごい家の出だったなんてさ! しかも、お父さんが二十歳ぐらいの見た目だなんて、ありえないだろ!」
「でも、ヴィーナさんが言ったんだから、本当なんだと思う」
エリカが、真剣な表情で言った。
クロエは、静かにスープをすすりながら、口を開いた。
「ありえないことじゃない。この世には、常識では考えられないことが、いくらでもある。まして、二百年前に魔王の残党と戦った英雄なら、何か特別な力を持っていても、不思議ではない」
クロエの言葉に、メンバーたちは静かに頷いた。
「でも、なぜだ…? なぜ、そんなすごい力を持った英雄が、身分を隠して、ヴィーナと二人で旅をしていたんだ?」
レナが、考え込むように言った。
「それが、領主様も言っていた、彼が力を避けた理由だと思う」
ヴィーナが、静かに答えた。
「父は、聖魔法を使うことを避けていました。それは、彼が、自らの力で何でも解決することに意味がないと考えたからです。きっと、英雄として生きることに疲れて、静かに暮らしたかったんだと思います」
ヴィーナの言葉に、レナは、少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「そうか…英雄は、孤独なんだな…」
食事も終わりに近づき、食堂の賑わいも落ち着いてきた頃、レナは皆に顔を向けて口を開いた。
「さて、話は尽きないけれど、今後のことを話しておきたい」
レナは真剣な表情で言った。
「今回の報酬は、当面の旅費に充てられる。だけど、フォルネリアでの目的は達成した。次は、どこへ向かうべきか…」
ナツキ、エリカ、クロエは、皆、レナの言葉に注目し、ヴィーナもまた、今後の旅路を仲間たちと共に考えるべく、真剣な眼差しでレナを見つめていた。
その時、これまで話を聞いていたナツキが、突然立ち上がって言った。
「なあ、レナ! 俺、エルディナ聖王国に行ってみたい!」
ナツキの突然の言葉に、一同は驚き、ナツキを見た。
「だってさ、二百年前に英雄として活躍したってことは、その街には、まだその痕跡が残っているかもしれないだろ? それに、もしかしたら、レイクスさん本人に会えるかもしれないし!」
ナツキは、興奮した様子で語り続けた。
「俺、英雄に会ってみたいんだ! それに、聖王国って、どんなところか見てみたいし!」
ナツキの言葉に、レナは、少し考えてから口を開いた。
「…ナツキの気持ちは分かる。でも、今回の旅は、ヴィーナの意思を尊重して、進むべきだと決めたばかりだ」
レナは、そう言うと、ヴィーナに視線を向けた。
「ヴィーナ…どう思う?」
ヴィーナは、ナツキの純粋な瞳を見て、少し考えてから、静かに答えた。




