ヴァルトニアの聖女
第三十三話 ヴァルトニアの聖女
ヴィーナが自分の名を名乗った瞬間、謁見の間の空気が一変した。それまで静かに座っていた領主、レオンハルト・フォルネリアが、微かに身を乗り出した。隣に立つリランダの瞳には、驚きと、そして確信の光が宿る。
「ヴァルトニア…」
領主は、静かにその名を口にした。その声には、威厳だけでなく、深い感慨が込められていた。
「君は、あのヴァルトニアの…」
「はい。養女ですが、ヴィーナ=ヴァルトニアと申します」
ヴィーナは、はっきりと答えた。彼女の言葉に、ナツキとエリカは顔を見合わせ、言葉を失っていた。クロエも、かすかに眉をひそめている。彼らは、ヴィーナの口から初めて聞く**『ヴァルトニア』**という姓に、戸惑いを隠せないでいた。
しかし、レナだけは違った。彼女は、王立図書館で読んだ歴史書の一節を思い出していた。魔王の残党との戦いを描いたその物語に、伝説の英雄として描かれていた人物。その名は、レイクス=ヴァルトニア。そして、ヴァルトニアは、エルディナ聖王国の英雄の姓として、この国では広く知られていた。
「そうか。君が、レイクスの…」
領主は、静かに玉座から立ち上がると、ヴィーナの前に歩み寄った。
リランダは、その場で領主に進言した。
「レオンハルト様。ヴィーナ様はレイクス様の養女とのこと。もしよろしければ、私がお話しを伺ってもよろしいでしょうか」
リランダは、領主の許しを得ると、玉座の隣から一歩進み出た。
「ヴィーナ様。レイクスは私の弟子でした。彼は、私が今までに出会った者の中でも、最も強力な聖魔法使いでした」
リランダは、ヴィーナの目を見て、静かに続けた。
「彼が今、どこにいるのですか? そして、なぜあなたを養女にしたのですか。もし差し支えなければ、お聞かせ願えませんか?」
リランダの言葉は、単なる好奇心からくるものではなかった。そこには、彼の行方を案じる深い想いが込められていた。
その言葉に、ヴィーナは、少しだけ戸惑った表情を見せた。しかし、彼女は、レナたちに視線を向け、そして、意を決したように口を開いた。
「父は…」




