大聖堂の呼び声
第三十話 大聖堂の呼び声
レナは、大聖堂の荘厳な扉を前に、小さく息を吐いた。巨大なステンドグラスが、夕暮れの光を複雑な色彩に変え、床に神秘的な模様を描き出している。彼女は、この街で生まれ育ったが、この大聖堂の内部に入るのは初めてだった。
大聖堂の中は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。祭壇へと続く長い通路の先に、白銀の髪を持つ一人の女性が立っている。その女性こそ、フォルネリアの街を守護する結界を司る大魔導士、リランダだった。彼女は精霊魔法と爆裂、風魔法の使い手として、街の人々から尊敬を集めている。
「ようこそ、いらっしゃい、レナ」
リランダは、レナに気づくと、優しく微笑んだ。彼女の声は、風のように穏やかで、しかし確かな力強さを感じさせた。
「リランダ様。この度は、お呼びいただき、ありがとうございます」
レナは、冒険者としての礼儀を尽くし、一礼した。
「構いません。あなた方の活躍は、冒険者ギルドから聞いています。見事でした」
リランダは、レナのそばまで歩み寄ると、彼女の目をまっすぐに見つめた。
「あなた方のパーティーにいる、聖魔法使いの少女。彼女について、いくつか質問をさせてほしいのです」
レナは、その言葉に、静かに身構えた。リランダが尋ねているのは、ヴィーナのことだろう。
「まずは、彼女がどのような人物か、聞かせてもらえますか? これまでの経緯や、彼女の人柄について」
レナは、ヴィーナが父親とイシュタリア商業連邦にいたこと、そして、彼女が控えめで優しい性格であることを話した。聖魔法の力を恐れながらも、仲間を想う気持ちが強いことも伝えた。リランダは、その話に静かに耳を傾けていた。
「…そして、彼女は、霧の森で、どのような魔法を使ったのですか?」
レナは、ヴィーナが使った広範囲の聖魔法について、できる限り詳細に話した。瘴気を一掃し、その力がこれまでの聖魔法とは比べ物にならないほど強力だったこと。
リランダは、その話を聞くと、静かに目を閉じた。
「やはり、そうでしたか…」
リランダは、祭壇に戻ると、静かにレナに告げた。
「あなた方パーティーの功績は、この国の領主様も耳にされています。領主様は冒険者ギルドの代表者として、あなた方にお会いしたいと望んでおられます」
それは、依頼ではない。フォルネリアの街を守護する大魔導士からの、領主への謁見の知らせだった。
「近いうちに、正式な案内が届くでしょう。それまで、準備をしてお待ちください」
レナは、その言葉に答えず、静かに大聖堂を後にした。彼女の胸には、リランダから託された、あまりにも重い使命がのしかかっていた。




