帰路
第二十七話 帰路
「…これで、依頼は完了ね」
レナは、採取した大量の**『白銀の葉』**を慎重に鞄に詰めていった。その顔には、達成感と、わずかな安堵が浮かんでいた。森の奥へと続く道は、もう誰も見ようとはしなかった。
「ふぅ、よかったぁ…」
ナツキが安堵のため息をついた。彼女は、まだ手の震えが止まらないエリカの肩をそっと抱き寄せる。
「もう大丈夫だよ、エリカちゃん。あとは帰るだけだから」
エリカは、ナツキの温もりに安らぎを感じたのか、小さく頷いた。彼女の表情には、まだ恐怖の影が残っている。
「私も、少し…怖かったです」
ヴィーナが、ポツリと呟いた。彼女の言葉に、エリカはヴィーナを見つめる。
「でも、ヴィーナさんの光が…みんなを守ってくれた。だから、怖くなかった」
エリカの言葉に、ヴィーナは微笑んだ。その笑顔は、これまでの旅で見た中で、最も穏やかで、晴れやかなものだった。
クロエは、黙って周囲の警戒を続けていた。彼女は、森の奥の闇に、ただならぬ気配を感じ取っていた。しかし、精霊の声が警告したように、自分たちの手に負える相手ではないと悟っていた。
「ま、生きてりゃなんとかなるってね」
ナツキが、場を和ませるように明るく言った。
「そうだな。どんな依頼も、無事に帰ってきてこそだ」
レナが、珍しく柔らかい声で応じた。彼女たちの旅の目的は、あくまで依頼の達成。無謀な冒険ではない。
一行は、来た道を慎重に引き返した。森の空気は、ヴィーナの聖魔法が浄化したおかげで、行きよりもずっと清らかだった。道中、魔物たちの姿は全く見られず、彼女たちの足取りは軽かった。
やがて、遠くに街の城壁が見えてきた。フォルネリウスの街は、霧の森とは対照的に、人々の活気に満ちている。
「ただいまー!」
ナツキが、弾むような声で叫んだ。
彼らは、依頼を完璧に達成し、生きて街へと帰還した。そして、この旅で得たものは、目的の薬草だけではなかった。それぞれの心に芽生えた新たな決意、そして、何よりも強固になった仲間との絆。
この旅は、彼女たちの冒険の、ほんの始まりに過ぎなかった。