霧晴れて、光の残滓
第十五話 霧晴れて、光の残滓
ヴィーナが放った強大な光が収まり、森には静寂が戻った。瘴気は嘘のように晴れ、魔物が消え去ったことで、風が木々を揺らす音が聞こえてくる。
「やったな、ヴィーナ」
レナが、へたり込んだヴィーナの肩にそっと手を置いた。ナツキとクロエも安堵の表情を浮かべ、彼女の無事を確認する。
「私…あんな力があるなんて…」
ヴィーナは、自分の両手を見つめ、震える声で呟いた。その手に残る、得体の知れない感触。それは、誰かを救った喜びではなく、何かを消滅させたことへの戸惑いだった。
「あれは、浄化だ」
レナが冷静に言った。
「お前の聖魔法は、穢れたものを無に帰す力も持っていた。それは、癒しと同じくらい、お前にとって大切な力になる」
レナの言葉に、ヴィーナは言葉を詰まらせた。その葛藤を察したのか、ナツキがゆっくりと彼女に歩み寄る。
「まあ、今はそんなこと考えなくていいだろ。とりあえず、休もうぜ」
ナツキは、ヴィーナの背中を軽く叩くと、周囲を見渡した。魔物の残骸はどこにもなく、まるで何もなかったかのように森は清らかに澄んでいる。
「これなら、少しはゆっくりできそうだ」
クロエも静かに頷き、ヴィーナに視線を向けた。その瞳は、彼女の力を警戒するものではなく、純粋な好奇心と、かすかな尊敬を宿していた。
一行は、ヴィーナの回復を待つため、その場に留まることにした。ナツキは焚火の準備を、クロエは周囲の様子を探り、レナはヴィーナに背を預けるようにして警戒にあたる。
エリカは、静かにヴィーナの傍に寄り添い、じっと彼女の横顔を見つめていた。ヴィーナが放った光は、瘴気を晴らすだけでなく、エリカの心に巣食っていた恐怖の霧をも、一瞬だけ晴らしてくれた。
ヴィーナの疲労は深刻だった。魔力だけでなく、心までも使い果たしたように、その顔は青白い。しかし、そんなヴィーナの周りには、それぞれの持ち場で作業を続ける仲間たちの姿があった。彼らの、当たり前のように存在している姿。その静かな温もりが、ヴィーナの心に安らぎを与えていた。
聖魔法の癒しとは違う、人間同士の絆が生み出す光が、ヴィーナの心の奥底をじんわりと温めていく。その光は、彼女がこれから進むべき道を照らす道標のように思えた。