霧の森の攻防2
第十四話 霧の森の攻防2
ヴィーナの温かい光に包まれ、エリカの心にわずかな安堵が広がった。その力は、疲弊しきった彼女の精神をそっと撫でるように、内側から満たしていく。意識とは別のところで、凍りついていた何かがゆっくりと溶け出すような感覚だった。
「…ありがとう、ヴィーナさん」
エリカは絞り出すようにそう言うと、震える手で再び杖を握った。しかし、霧は再び濃くなり、魔物の数は減るどころか、さらに増していく。
「どうする!? このままじゃジリ貧だぞ!」
ナツキが叫び、クロエもまた、迫りくる魔物の群れに苛立ちを募らせていた。その時、レナが静かに告げる。
「…この霧を、晴らすしかない」
「どうやってだよ!? 無理だろ!」
ナツキの言葉に、レナはヴィーナに視線を向けた。
「ヴィーナ、お前の聖魔法なら…」
レナの言葉に、ヴィーナは迷う。彼女の聖魔法は、癒しの力。広範囲に及ぶ浄化は、未だ試したことのない禁忌の領域だ。
「でも…」
「試すんだ、ヴィーナ! このままでは、皆、やられてしまう!」
ナツキの切羽詰まった声に、ヴィーナは意を決した。彼女は両の手を広げ、全身の魔力を解放する。すると、ヴィーナの身体から、太陽の光のように眩い光が放たれた。それは、これまで見てきたヴィーナの光とは比べ物にならないほど、強大で、優しい光だった。
光は、周囲の瘴気をまるで嵐のように吹き飛ばし、濃密な霧を瞬く間に消し去っていく。魔物たちは、その光に触れると、悲鳴を上げながら塵となって消滅した。そして、光が届いた場所からは、色を失っていた木々が再び鮮やかな緑を取り戻し、地面に咲く花々が、顔を上げた。
「すげぇ…」
ナツキの呟きが、静寂を取り戻した森に響く。
「やった…みんな、大丈夫…?」
ヴィーナは、力を使い果たし、その場にへたり込んだ。レナとナツキが駆け寄る。その瞳に、安堵の表情が浮かんだ。エリカもまた、ヴィーナに歩み寄り、その手を取った。
「ありがとう、ヴィーナさん…」
エリカの瞳には、先ほどまでの恐怖の色はなかった。そこに宿るのは、ヴィーナへの感謝と、そして、かすかな憧れだった。