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女神が消えた日  作者:
7/14

7.密告者

ユリアンヌが王宮へやって来てから半月たった頃、ハーベイの元へ、密告文が届けられた。


イナンナを殺すように吟遊詩人パーシヴァルに王妃サイベルが指示を出していたこと、武術大会のあったあの日、イナンナはパーシヴァルに追い詰めらて転落したという内容だった。


差出人不明の密告文ではあったが、これが真実だとしたら、密告者は王妃サイベルの近くにいる者ということになる。


パーシヴァルは行方をくらましているため、どのみち探し出す必要がある。


あの流行り歌についても追及しなければならない。


イナンナを誘惑しようとしていたあの男は、やはり王妃のまわし者だったのか。


カイルに密告の内容を告げると「そうか」とだけ返ってきた。

既におおよその見当はついていたのだろう。


「すまないが、お前のところでユリアンヌ嬢を預かってもらえないか?」

「あの令嬢を婚約者にするつもりか?」

「いや、そうではない。危険に晒したくないだけだ」


王妃とパーシヴァルの件を片付けて、彼女の安全を確保できるようにしたかった。

ユリアンヌは、王宮での滞在期間が終わった後は侍女としてルーベンス侯爵家で働くことになった。


デフォー伯爵はユリアンヌの親の領地をほぼ売却しており、彼女が受け継げる領地は残っていなかった。

それでもこれまで世話になった養父と裁判沙汰などにはしたくなかったユリアンヌは育ててもらった礼を伝えると家を出ることにした。


ユリアンヌの父には兄弟はおらず、母の実家は、伯父が継いでいたが、伯父夫妻と母は不仲だったために、ユリアンヌは引き取ってもらえなかったのだ。


別れを告げると別段引き留められることもなく、「そうなの?ではそうしなさいな」と義母も義妹もあっさりとしたものだった。

最後までお兄様とは呼べなかったアルバートだけが、ユリアンヌの先行きを心配してくれた。


これからはデフォーの姓を名乗れなくなったので実父のマーロウを名乗ることにした。


ユリアンヌ·マーロウ、これが本来のユリアンヌの名前だった。



***


登城して一月が経過し、ユリアンヌはイナンナの部屋に別れを告げた。


カイルは婚約者を決定しなかったのだが、エスター公爵令嬢とマッシーモ侯爵令嬢は、城を出るつもりは全くないようで、 カイルは辟易としていた。



「元気でな。ハーベイの家族に可愛がってもらうのだぞ」


カイルはすっかりユリアンヌの兄のような立ち位置だった。

カイルは、ユリアンヌがイナンナの部屋に来た頃のどこか虚ろな青い瞳ではなくなって、生気が宿っている。

イナンナが隣にいた頃の秀麗な凛々しさを放つ殿下に徐々に戻って来ているのを、ユリアンヌは嬉しく感じていた。


「はい、殿下もどうかお元気で 」


ユリアンヌはルーベンス侯爵家を目指して馬車に乗った。



ルーベンス侯爵家はユリアンヌを歓迎し、侯爵夫人の側仕えになった。

夫人は自分が身籠った子を流産で亡くしたばかりの頃にイナンナを娘として引き取った。 その愛娘を喪い、ショックで寝込むほど酷く気落ちしていたが、ユリアンヌのイナンナ似の青い瞳が、侯爵夫人の慰めになっているようだ。


ハーベイにとっても、ユリアンヌの飾らない性格と明るさが癒しになっていた。



ハーベイの元に新たな密告文が届いた。 今度はパーシヴァルの潜伏先を知らせるものだった。


ハーベイが急ぎパーシヴァルの元を訪ねると、刺客に襲われて絶命寸前のパーシヴァルが部屋で倒れていた。


助け起こすと、長い金髪は鮮血で汚れ、緑の瞳は既に焦点が合っていなかった。


「女神を···殺すつもりはなかったんだ······」


あの日、突然牙を剥いた自分の嗜虐性に、思い出すだけで自分で身震いする。


あの時は本当に自分はどうかしていたと、パーシヴァルはまるで邪な誰かに自分を乗っ取られたような感覚だった。


イナンナを殺しても殺さなくても、結局自分はこのように王家から消されるのは予期していた。


パーシヴァルは口から再び泡を吹き、「サイ···ベル」とだけ口にすると事切れた。


部屋にはどことなく甘い異臭が漂っていた。

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