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女神が消えた日  作者:
2/14

2.濡れ羽色の髪

カイル王子殿下の婚約者候補はユリアンヌを含めて三人おり、皆黒髪、濡れ羽色の髪を持つ妙齢の令嬢が集められた。


それを求めたのはカイル殿下ではなく、王妃サイベル様の勝手かつ迷惑な忖度でそうなったに過ぎないのを、カイル殿下の反応から察することができた。


集められた令嬢がそれぞれ殿下に挨拶をすると、カイル様は舌打ちしそうな勢いで顔を背けたからだ。


どの令嬢もみな、お呼びではないのだ。


意図的に喪ったばかりの故人を思い起こさせる特徴を持つ令嬢を送り込むなど、残酷極まりないことだ。


公爵令嬢はカイル殿下の隣室に、侯爵令嬢はカイル殿下の向かいに部屋を用意されたが、ユリアンヌだけはそこから少し離れた一室があてがわれた。

これから候補者三人は一月の間王宮で暮らし、その後候補を一人に絞る予定であることを通達された。


ユリアンヌは自分が当て馬役であり、自分がカイル王子に選ばれることはないとはじめから理解していた。


皆髪は黒髪だったが、明るい青色の瞳の長身の令嬢がエスター公爵令嬢アドリアナ、淡い青色の涼しげな目元の、小柄ながら豊満な令嬢がマッシーモ侯爵令嬢ジュリエッタだった。


背丈と瞳の色、濡れ羽色の髪が最もイナンナ様に近いのはユリアンヌだったが、家格の釣り合いからそのように部屋を配置されたのだ。



ユリアンヌがあてがわれた部屋のクローゼットを開けて見ると、ふわりと甘やかな残香が漂った。

亡きイナンナ様のものらしき仕立ての良いドレスがそのままにされてあったので、すぐさま閉じた。

机やドレッサーも、生前のままにされているのか、ユリアンヌが入り込む隙など無いことを否応なしに突き付けられた。

部屋の持ち主から自分が拒絶されているように感じた。


ここは、生前イナンナ様が使用していた部屋だったのだ。

イナンナ様は正式な婚約者でも、カイル王子の部屋の隣室ではなく少し離れたところに居室を持っていたのは、冷遇されていたのでは全くなく、むしろ良好だからこそそれだけ結婚するまでは適切な距離を保つためだったのだろう。


喪が過ぎるまで王子殿下や遺族がイナンナ様を偲ぶために保存された部屋に、自分が通されたことに驚きよりも申し訳なさの方がはるかに勝っていた。


身の置き所がなくなったユリアンヌは、隣接する侍女部屋に荷物を納め、そこで寝泊まりすることにした。

ユリアンヌは淑女教育は受けていたがアカデミーを出ていなかったため、他の王子妃候補者のように専属講師による王子妃教育は受けられず、自室で別途自習を命じられた。


「私が候補者の頭数を便宜上増やすためのものでしかないのは、想像通りだったわね」


ユリアンヌは肩をすくめた。


自習以外は趣味の読書や刺繍などをして時間を潰した。

食事も一人で部屋で取り、お茶会にも呼ばれることはなかったので他の候補者とは交流せず引きこもって、早く一月が過ぎ行くのを待ちわびた。



夜ふとした瞬間に、この部屋の主であるイナンナ様はを思い起こすことが頻繁にあった。

まるで今も生きてここにいるような、そんな錯覚にしばしば襲われていた。

本当にイナンナ様の姿が今にも現れそうで落ち着かなかった。



ある日の午後、侍女部屋でうとうとしていたところ、突然扉が開いてカイル王子殿下がやって来た。


「本当にここにいたとは······」


カイル殿下は半ば呆れた口調で呟いた。


ユリアンヌがイナンナ様の部屋の物は一切使わず、侍女部屋で寝起きしているという噂が殿下の耳にも届いていたのか、自分の目で確認しに訪れたようだった。


「不自由は無いか?」

「はい、ございません」

「······なぜこちらの広い部屋を使わないんだ?」

「イナンナ様の気配が色濃く残っていまして、どうにも気が引けてしまうのです」

「······そうか。······俺もこの部屋に入るのは久しぶりだ」


なぜこの部屋が自分にあてがわれたのかをカイル殿下に問い質すのは躊躇われた。


殿下は振りかえると部屋をゆっくりと一瞥した。


「彼女に配慮してくれて感謝する」


カイル殿下は、寂しげな微笑を浮かべた。


「また来る」


以前よりもやつれたカイル殿下の相貌が痛々しかった。


殿下がやって来た時、この部屋を追い出されるとばかり思っていたユリアンヌは、安堵した。

誤字脱字ごめんなさい!

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