5 相棒
相棒は某右京さんではありません。
広大な世界を旅するための頼もしい相棒です。
武術や魔法が少しずつ身についてきた。
夜の日課に何も感じなくなってきた頃。退屈しのぎに少しわがままを言ってみた。
玉座にて。目の前には太陽さんがいる。
「あの!お願いがあるんですが!」
「なんじゃ?」
「馬に乗りたいです。」
実はここを散策している時に牧場の様な物を見つけたのだ。
「馬術か!」
「ハイ!一度馬に乗ってみたかったんです。」
「異世界は広いでな。異世界で転移魔法は未だ存在しない。現状は馬による移動が一番スムーズだろうな。
それに、現在習っている和弓などは馬上でも使えるらしいの。」
「なんかそうらしいですね」
よく知らないので曖昧に返事をする。
「サムライやブシは弓術、薙刀や槍、太刀を、馬上で使いこなし、強力な戦士として活躍していたそうだぞ。」
「あー!騎馬武者ってやつですか?」
「それじゃな!」
「あれかっこいいですよね。」
というと、太陽さんは少し考えてうなずく。
「よし。今から厩舎に行くぞ!」
というと、太陽さんは謎の雲に乗りふわふわと移動する。もちろん私は徒歩。
しばらく歩くと草原に出る。そこは柵で囲われた広大な草原だった。
その一角に厩舎がある。ほかにも柵で区分けされている場所があり他の家畜もたくさんいる。
厩舎が見えてくる。すると何やら誰かの叫び声、馬の鳴き声、壁をハンマーで叩いたような大きな物音、馬とは思えない獣の様な鳴き声などが聞こえてくる。
太陽さんだ楽しそうに言う。
「おお!今日もやっておるようじゃな。」
あの騒ぎはいつも通りらしい。
「普段からあんな感じですか?」
「暇だったのでつい最近、私自ら馬を一頭だけ作ってみたんだ。ちょうど今のお前の様に馬の魂に私の作った体を与えたのだが。出来上がったのはとても気難しい暴れ馬だったのだ。」
さすが神様って感じの事をしてる。
「普段からそんな事してるんですか?」
「ごく稀に、魔が差した時にやってしまうのだ。」
「神様でも魔が差すんですね。」
「別に悪いことではないからの。彷徨っている馬の魂を拾い上げ、記憶を消し、体を与えたのだ。」
「本来は転生させるが、私専用の馬が欲しくてつい。」
「あんなに暴れてますけど?」
「どうやら神嫌いで、私以外の神々や他の馬たちの事は嫌いらしく、噛みつく、蹴とばす、投げ飛ばすなどの暴行を働いておる。」
「投げ飛ばす?」
「噛みついたまま、顎と首の力でぶっ飛ばされておるのよ。」
「私に対しては大人しいが、それでも一切なつかないのだ。」
「とんでもない暴れ馬ってことですか?」
「そうじゃ、見た目は真白で大きく美しいのだが。性格は肉食動物か何かである。」
と話しているといつの間にかその大きな白い馬がこっちに猛ダッシュしてくる。
「お!来たぞ。」
と楽しそうに言う太陽さん。
「投げ飛ばされます?」
と恐る恐る聞く。
「かもな!」
と笑いながら答える太陽さん。
近づいてくる馬にビビり、ついつい尻餅をついてしまう。
「うわっ!」
すると目の前にはピンク色の世界(馬の口内)が広がる。『噛みつかれる!』と思い目を瞑る私。
しかし、ひたすらべろべろと舐められる私の顔。
「なんだこれ!!!」
と状況が分からずに狼狽える私。
すると太陽さんが言う。
「なぜか気に入られたようだな!」
「誰にも、どの馬にもなつかなかったのにな。うらやましい限りだ。」
のんきに言っているが、私の顔はべっちゃべちゃです。
「とにかく額か顎でも撫でてやれ!」
と言われ、恐る恐るゆっくりと撫でてみる。
「もう少し強くてもいいぞ。」
と言われ、ポンポンと撫でてみる。すると馬は嬉しそうに嘶き、ゆっくりと顔から離れてくれる。
そのまま撫でながら、ゆっくり立ち上がる。
「めちゃめちゃ大人しいですね!」
とか言っていると。いつの間にか、げっそりした顔で厩務員風の恰好をしたおじさんがいた。
「奇跡が起きた」
と真顔で言っている。まずこのお馬さん真白です。目は真っ黒で口の中は真っピンク、それ以外真白です。
たてがみも尻尾の毛も足元の毛もサラサラフワフワで真白。
たてがみと尻尾は結構伸びているし、暴れていたせいで、体中が汚れている。
そして何より巨大。競走馬とかよりもっと大きいくてごつい。
四肢は長く、首や肩、腰などはがっちりしている。おなかは引き締まっていて。
とても美しい姿をしている。地面から首の付け根までの高さは私の身長(185cm)ほどある。
白くてデカくてきれい、そんな印象だ。
他の馬は鹿毛、栗毛、青毛、芦毛、ホルスタインの様な模様、色々いる。
しかしほとんどは競走馬のように細身か、比較的小柄ですばしっこそうな馬。
こんなにデカい馬はいないし、あんなに暴れまくっている馬もいない。
「この子はなんていうんですか?」
名前はあるのかな?と思い聞いてみる。
厩務員風のおじさんが答える。
「名前を付けても、まったく反応しないので。無いのと同じです。」
ケラケラと笑いながら太陽さんが言う。
「ではお前がつけてやればよかろう。」
「え?」
「いいんですか!!」
「うむ。お前が付ければ喜ぶだろうからな。」
名前を付けるだけなのに、なんかうれしい。
適当にそれっぽいのをつぶやいていく。
「シロ、クモ、ソラ、ホワイト、ブラン、牛乳、お米。」
どれも反応なし。
「ブケファロス、赤兎馬、マレンゴ」
そっぽを向かれる。まだ最初のシロのほうがマシな反応だった。
「じゃあ白くてフワフワだから。」
「ユキ!」
これが一番ましだったのか、またもやペロペロタイムが始まる。
「気に入ったようだな。」
と言う太陽さんと、ほっとしたような厩務員さん。
そして申し訳なさそうに厩務員のおじさんが話す。
「もしよければ、ユキのお世話をお願いしたいのですが・・・」
「この馬は基本的に小食なので餌の頻度や量は少ないです。」
「なのでそこらに生えている草を食べるだけで十分なようです。」
「厩舎には入ったり入らなかったり。自由に勝手に過ごしています。」
「だから、体を洗ったりブラッシングしたり、毛の手入れをしたり、そのあたりのお世話をお願いしたいのですが。」
普段から自由奔放なようだ。てか馬の餌ってかなりの量が必要って聞いたことがある。
「餌の量はそれで問題ないのですか?」
「ええ。太陽神様が作られた体のせいなのか、頑丈で暴れまくる癖に超小食です。」
迷惑そうに答える厩務員のおじさん。
「あと、空いた時間に調教していただければ、乗りこなすことが出来るかもしれません。」
乗れるのはお前だけだけどな、みたいな顔で言ってくる。
「調教?」
「はい。人と信頼関係を築き、馬具に慣れさせて、進め曲がれなどの指示を教えていく事です。」
「私でもできますか?」
「ええ。私はその道のプロですから、しっかりサポートしますよ。」
プロですら手を焼く暴れ馬を相手にするんですが、どうなんですか?とか思ってみたりする。
「ユキ!お前に乗れるように訓練したいんだけど!いい?」
と聞いてみる。
するとおもむろに近づいてくるユキ、襟を後ろから噛みつかれユキの背中めがけて放り投げられる。
「うわぁ!」
びっくりして変な声が出る。いつの間にか背中に乗せられている。
「言葉が分かるのか?」
と信じられない物を見るような顔をする厩務員のおじさん。
「まあ、私が作ったからな!」
と自慢げに話す太陽さん。
どうもハイスペックが過ぎる様子のユキ。神様クラスの名馬になってるようだ。
太陽さんが厩務員のおじさんに軽く経緯を説明をする。
「確か、現在あなたが習っている武術に合わせた馬具や馬術があるので。」
「ユキサイズに合わせた物を一から作ります。それまでは簡単な訓練やお手入れなんかをやりましょう。」
との事。日本古来の馬具や馬術は特殊らしい。大まかに鐙の形、鞍の形、ハミと呼ばれる部品。これらが西洋の物とは大きく違うらしい。
西洋でも差はある。ウエスタンスタイル、ブリティッシュスタイル。馬具も違えば、馬に出す合図も違う。
そんな中、わざわざ和式にしたのは私の戦闘スタイルが和式なのと、単に太陽さんが日本ブームだかららしい。
なのでわざわざユキに合わせた大きさの物を新たに作ってくれると言うが。材料に皮や鉄を多く使うので、見た目は和風にはならないらしい。それと諸に和風だと目立つので転生先風の見た目に改良するそうだ。
つまり洋風和式馬具となる。
太陽さんがかなり残念そうな顔をする。騎馬武者を想像していたのだろう。
しかし切り替えて話始める。
「そうだ!うまく調教できて馬さえ良ければ、ユキを相棒として連れてってもいいぞ?」
とうれしい提案。
最近鍛錬が続き遊ぶ時間もなく、もっともらしい理由を付けて、馬に乗ってみたいとわがままを言ったのだが。
思いがけず、異世界に連れていける頼もしい相棒ができるかもしれない。
ただちゃんと訓練できるかは疑問が残る。
太陽さんがあとは任せたぞ!と言いフワフワと去っていく。
「まずは洗い場で汚れた体を洗ってやれ!」
と厩務員のおじさんが言う。
「ユキ!体を洗いに行こ!」
というと、ユキは私を背中に乗せたまま洗い場に歩いていく。
「やっぱり言葉わかってるよな?」
とぼやく厩務員のおじさん。
到着してユキから降りると道具を手渡される。
長くて固い根ブラシ、短くて柔らかい毛ブラシ、でっかい歯ブラシみたいな鉄爪、T字の先端が湾曲したような形の汗こき、たてがみを整えるための金属製のくし、ブラシをきれいにするための金属製の厳ついごつごつとしたやつ、たてがみや尻尾の毛を切るハサミ。
「結構あるんですね。」
「まあな。道具袋をやるから自分で持ってろ。」
と言われて道具を一式もらった。
「水洗いは、基本毎日か数日に一回のペースでやる。」
「汗をかいてなければ、ブラッシングで済ます。」
「ブラッシングは毎日してやれ。」
との事。
「まずは蹄の裏のごみをを確認する。」
「こいつの蹄は、鉄の釘が刺さらないので、蹄鉄はつけてない。」
ん?そんなことある?
「釘が刺さらないって事あるんですか?」
「そんな馬はこいつが初めてだ。」
との事、もう驚かない。
「ゴミが詰まってたら、鉄爪で取り除く。」
「そして、水洗いの時は、馬の足元から徐々に水をかけていく。」
厩務員のおじさんが教えてくれる。
ユキの蹄を確認した後。
水魔法を発動させ。足元から徐々に水をかけていく。
水の魔法は少し経つと消える。飲み水にはならないが。すぐには消えないのでこういう時には使える。
「鼻や耳は嫌がるから注意しろ。」
「次は、上の方から根ブラシで擦る。」
「足の間などの毛の少ない部分は手で擦ってやれ。」
と言われた通りに洗っていると。
ユキは気持ちよさそうに目を細め鼻を鳴らす。尻尾もぶんぶん振るので、私はビチャビチャにされる。
「しっかり出来たら。汗こきで水を落としてやれ。」
T字の道具で水を絞っていく。タオルで拭いて仕上げ。勝手に水が消えるといってもしばらく残るのでしっかり拭いてあげる。
洗い終わったユキを二人で眺める
「おおー!ピッカピカのつやつやだな。」
「本当に綺麗ですね。」
たてがみや尻尾もしっかり手入れしたので絵にかいたような美しい馬になる。ただし暴れ馬。
仕上げにたてがみと尻尾の毛をカットする。
洗っている最中に分かったのだが、ユキはメスだった。
「夜は時間がないだろうから、早朝着て手入れしてやってくれ。」
「太陽神様には私から伝えておく。」
「体を洗うのは、夜でなくて大丈夫なんですか?」
「こいつはほどんど汗をかかないからな。馬術の訓練が始まれば、訓練の後に体を洗うようになるから問題ない。」
「汗かかないって、何かの病気ですか?」
「予想だが。多分こいつは魔法か何かで体温調節をしている。」
「魔法が使えるんですか?」
「多分だが、自然と感覚でやっているだけだ。やり方を教えたら何かしらの魔法が使えるかもな!」
という厩務員のおじさん、この辺も神様仕様の馬だった。
そしてユキと別れて普段の訓練に戻る。
お馬さんとお友達に慣れました。
この馬のイメージは白毛のシャイヤーです。
ググったら出てきますのでイメージしやすいと思います。
馬に対するの扱いは異世界仕様なので実際とは異なります。
あくまでフィクションです。