40 毛だらけの饅頭が如く
薬師のおばーさんの依頼です。
次の日。
訓練を終え。
朝食を終え。
アーロン達と別れてユキに馬車を引かせて、協会へ行く。
今回の依頼はユキの引く馬車に乗っていくことになってる。
「おはよーございます」
今日はポリンちゃんはお休みだった。
代わりにグレタさんと言うケバケバの女性が受付だ。
「ヒロです。」
「薬師のばーさんからの指名依頼が来ているはずですが?」
「あー、ありますよー少しお待ち―」
「これっすねー」
「依頼主の方はすでにいらっしゃってますよー」
手続きをした後、協会内の飲食店風の場所でバーさんが待っていた。
「おはようございます。」
「お!早かったね!」
「はい、早速行きましょうか!」
「あいよ!よろしくね!」
って事で俺が御者台に乗り。
アンナとバーさんとスイとエンが幌馬車の中でのんびりする。
「どんな薬草何ですか?」
アンナがばーさんに聞いている
「腰痛によく聞く薬草なんだよ。」
「煎じて飲めば腰痛が治るという。」
「痛み止めですか?」
「いいや、一時的な物ではなく本当に治るんだよ。」
「へー!そんなびっくりな薬草あるんですね!」
「まだまだ未知の薬草も沢山あるさ。」
「未知の薬草を見つけたらどうするんですか?」
「未知の薬草を見つけた場合は本に書いて出版するんだよ。」
「本を書けない人は?」
「何もせず放置だね。」
「へー」
「だから辺鄙な村で意外な発見があったりするんだよ。」
「へー!」
「面白ーい!」
そういえばジャックさんが使っていた、
獣の皮を鞣す時に使う特殊な木もそんな感じか?
ちょっと違うのか?
地元民だけが知っているって言ってたっけ?
いってなかったっけ?
そこまで詳しく聞かなかったな。
この町の北側の平原の向こう側にはとても深い森が広がっている。
そして所々山やら谷やらが有ったりなかったり。
平原を超えて森に入る。
深く暗い森だ。
馬車で通れる道を行く。
「それにしても、アンタの馬は速いね。」
バーさんが乗ってるが無茶なスピードで走ったのでかなり早く進んでいる。
「腰に来ましたか?」
「いいや、大丈夫だよ」
バーさんが笑いながら言う。
鬱葱とした森の中をひたすらすすむ。
町から見て北の方角に村が在る。
しかしその村とは若干違う方向に進む。
真北ではなく若干東寄りに進む。
「だけど馬車が壊れないかい?」
「確かに、速度を落としましょうか。」
速度を落とす。
アンナも尻を痛そうにしてるし。
バーさんの指示に従いながら進む。
「この辺りから馬車を下りて進もうかね。」
「わかりました。」
「馬車は放っておいても大丈夫だよ。」
そう言う事なのでユキを馬車から外して鞍を付ける。
次に尻の部分にバーさんが持ってる両側に垂らすタイプの籠を付ける。
「さて、スイとエンは周囲を警戒しろ。」
「危ないのが居たら無理せず、すぐに知らせてくれ。」
ワン!と言って二匹とも俺たちの少し前方を歩く。
「優秀なワンコだね!」
「ええ、うちのワンコは世界最強ですよ。」
「ははは、それは頼もしいね。」
馬車を置いてきたという事はこの辺が例の魔物のテリトリーなのだろう。
「日光の当たらなさそうな所に生えているんだ。」
「この森全体的に真っ暗ですよ?」
「もっと日が当たらない所さ。」
歩いていると開けた場所に出る。
周囲の様子が変だ。
木や枝が折れている。
地面も所々抉れている。
スイとエンが何かに気が付いたようだ。
俺もほどなくして【探索】の魔法に何かの反応を感じる。
「大きくて丸い何かが来るぞ。」
「離れて居ろ。」
アンナとバーさんとユキは俺達から距離をとる。
空から音もなくその物体が音速で突撃してくる。
俺と2匹は音速のデカブツを躱す。
するとそれは地面に激突する。
ズドオォォン!!
「でっかいのが来たな。」
それは見上げるほど大きな体躯の、
真白な毛玉?
いやよく見ると鳥の尾羽と真っ黒でまん丸な目小さな嘴がある。
そのまん丸な巨鳥は体に似合わない小さな翼を大きく広げる。
ピイイイィィィィィ!
と甲高い鳴き声を上げる。
「ん?威嚇か?」
いやめちゃくちゃ可愛いのだが?
「威嚇になってなっ!」
そう言い切る前にとりさんが嘴でつついて来る。
ズドオォン!!
ドカアァン!!
バコオォン!!
超強力な啄みが襲ってくる。
「この体格の割に素早いぞ!」
狂角兎よりも遥かに素早い。
「おーい、多分そいつがこの辺りの主じゃ!!」
「どうにかしておくれ!」
とはいってもこいつ可愛いのですごく殺しにくい。
「おい!ちょっと薬草取るだけだから見逃してくれ!」
そう叫んでも猛攻撃は止まらない。
さらには音速で低空飛行をし始めた。
しかも直角に曲がるし、衝撃波で周囲の物がぶっ飛んでいくし、
もう止まらない。
今までに出会った魔物の中では明らかに格が違う。
「一旦大人しくさせるか。」
身体強化を自分にかける。
俺は鳥の攻撃に避けると同時にカウンター気味に側頭部を殴る。
鳥は頭を上げて少しグラついている様子。
俺は飛び上がり両手を握って鳥の脳天に振り下ろす。
ドカーン!
そして動かなくなった。
一応手加減したので生きてはいるはずだ。
「まあ計画通りだ。」
「ほんとかい?」
バーさん達が近寄ってくる。
俺は果物を用意して顔の近くにつまんでぶら下げる。
「エサ食わせりゃ仲良くなれるだろ?」
「そんな簡単に行きますか?」
「行かなかったらこいつ自信が痛い目に会うだけだ。」
「なかなか野生的な躾ですね。」
この鳥の形状だけは見覚えがある。
シマエナガと言う丸々とした体の白い鳥だが嘴と目以外は全身真白だ。
がしかしあまりにもデカすぎる。
そのうえ音速で飛ぶ。
周囲の木々や枝が圧し折れているのはその衝撃波の影響もあるのだろう。
「おーい、起きろー」
俺はそう言いながら果物を目の前でプラプラさせる。
そうしていると巨大シマエナガは目を覚ました。
「食うか?」
俺がそう言うとコイツは果物を食べ始めた。
「そういえば鳥って肉食じゃなかったかい?」
バーさんがそう言った。
「肉の方がいいか?」
俺はそう言うと鞄の中に手を突っ込んでこっそり収納から肉を出して食わせる。
「こっちの方がいいか?」
するとこの鳥は嬉しそうにバクバク食べ始めた。
「こいつ物分かりがやたら良いな。」
「縄張りに入って悪かったな。」
そう言いながら頭をなでる。
すると鳥は嬉しそうに目を細める。
『最近臭いやつらが縄張りに居てムカついてたんよ!』
とか急に言い始めた。
そう言ったわけでは無くそんな意思がなんとなく伝わってくる。
「お前も随分頭がいいみたいだな。」
『ふん!人間なんかよりも賢いよ!』
「で、薬草をとってもいいか?」
『えー!嫌だけど?』
「まじか・・・」
『でも、臭いやつらを追っ払ってくれたらいいよ!』
「お前なら十分追っ払えるんじゃないか?」
『臭いからいやだ!』
「なるほど。」
「悪臭の元を経てば縄張りで薬草をとってもいいか?」
『あんたとその友達だけならいいよ!』
「わかった、でその臭いのって何?」
『二足歩行の悪臭鼠野郎だ。』
「なんだそれ?」
『臭い鼠頭の人間っぽい奴らだよ。』
「ゴブリンとは違うのか?」
『それに似てるけどもっと臭いから気を付けてね。』
「わかった。」
「こいつらをここに置いていってもいいか?」
『いいけど、君一人で行くの?』
「ああ、俺一人で行く。」
『本当に臭いから気を付けてね!』
そしてアンナ達に向き合い報告する。
「なんか臭い鼠野郎を退治する事になった。」
俺の頭の中では完全に〇ッキーマウスなんだけど。
「あー、鼠人が巣でも作ったのかい?」
バーさんが言う。
「ああ、そんな名前なのか。」
「そうさ、弱いけどあまりの体臭の臭さで危険度がゴブリンより一段階上がってるんだ。」
なんか戦う前からげんなりしてきた。
「そう落ち込むことはないさ。」
「匂い消しの薬草を鼻に突っ込んでおいたらほとんど匂いを感じないよ。」
元気が出てきた。
アンナが鞄からその草を出してくれる。
「この前取って置いたのがまだ使えるのでどうぞ!」
「ありがとう!本当に助かるよ!」
その草をポケットに入れる。
「お前たちはここでこの鳥と一緒に待っててくれ。」
「あんた一人で行くのかい?」
「ああ、一人の方が動きやすいからな。」
「わかったよ、あたしたちは大人しくここで待ってるよ。」
「ヒロさん、お気をつけて!」
「スイとエン、それにユキもここで待っててくれ。」
「ワン!」
多分鼻が曲がるから犬は行かない方がいい。
「おおよその方向はどっちだ?」
『あっちの方だよ。』
『洞窟の中にいたのが増えて漏れ出してきたんだ。』
『いっそ全滅させてもいいよ!』
「洞窟の中まで入って全滅させろって?」
『うん!お願い!』
「わかった。とりあえず行ってくるわ。」
『この子たちの事は心配しなくていいよ!』
「ああ、こいつらを頼んだよ。」
俺はそう言って鼠人の居る方に走る。
今回の任務はとてもシンプルで鼠人の全滅と悪臭の処理。
それも俺一人でだ。
だから手を抜かなくてもいいし魔法もある程度自由に使える。
やや少し森を突っ走ると徐々に悪臭が強くなってくる。
この辺りで鼻に匂い消しの薬草を突っ込む。
「すっごい効くなこれ。」
漂っていた匂いが薬草の匂いでかき消える。
そして走るとすぐに鼠頭で二足歩行の毛むくじゃらが沢山いた。
ある程度知能があるらしく、集団で生活している。
葉っぱみたいなので作ったテントっぽいのもある。
それに火も使えるらしい。
思ったより文化レベルが高い。
もっと野生的かと思ってた。
ガガガとかチッチッチとか言ってコミュニケーションを取っている様子だ。
俺はその鼠人の居る所の地面一帯に魔力を巡らせる。
魔法使いが居るのならばこの時点で気付かなければ魔法使い失格だ。
そして次の瞬間、全鼠人の下から土の槍が突き出し尻から脳天まで貫通する。
グサッ!!
このレベルの魔物をこの数一気に不意打ちで倒すのに楽な方法がこれだ。
いつかみたいに地面の土を操って壁や屋根を作るように、
地面の土で槍を作り出す。
魔法に触れた事の在る物なら事前に地面の異変に気付くはずだ。
一気に全滅したようだ。
大きな穴を掘って、そこに鼠人の死体をすべて放り込む。
触りたくないので魔法で一気に死体を運ぶ。
ついでにキャンプもゴミっぽいのも全部穴に放り込む。
そして山になった鼠人から漂う超悪臭、臭すぎて鼻に詰めた薬草を若干貫通してくる。
「くっさ!!!」
急いで魔法の炎で焼き尽くす。
臭いので一気に高火力で焼き尽くす。
服が臭くなりそうなので自分に【浄化】魔法をかけまくる。
こんな事があるならば消臭の魔法を開発しなければいけない。
周囲を見回ると洞窟があった。
中を【探索】の魔法で確認するとまだまだ鼠人が居る。
「こっちが本命か?」
中には大きめの個体もいる様だ。
洞窟に入ってみるとすぐさま悪臭が漂ってくる。
「くっさあぁぁぁ!!」
俺は全力で洞窟から逃げた。
困った臭すぎて洞窟に入れない。
まあ無理やり倒すしかないか。
まずは洞窟の入口に空気を通さなくする魔法の壁を張る。
そして入口から中に向かって魔法陣を描く。
この魔法陣は魔力を込めた分だけ炎の弾を発射し続ける魔法だが、
それに色々条件を付け加えた。
洞窟内部の構造に沿って奥まで飛んでいくような軌道と、
狂角兎の魔法の様に自動で生物を追尾するようにした。
色々ややこしい魔法陣になったがこれで洞窟の奥に入る事なく鼠人を駆除できる。
魔法陣を起動させる。
すると魔法陣からポンポン炎の弾が飛んでいく。
追尾式ミサイルが如く洞窟の構造に沿って飛んでいく。
洞窟の外に居ても炎の弾が着弾した時の爆音が轟く。
炎の弾の威力は高めにした。
名付けて【固定配置型追尾式軌道固定炎弾魔法連続発生魔法陣】
略して、追いかけていっぱいころすくん。
この魔法陣は例の兎を見てから夜な夜な考えたのだ。
まだまだ応用の効く魔法陣なのだ。
因みになぜ空気を遮断したのかって言うと、
魔法で殺し損ねた個体を窒息死させるためだ。
まあ別の穴があった場合意味ないんだが。
【探索】で奥まで確認した所、他の空気が通りそうな穴は無かった。
さほど時間が経たずに中から悲鳴と絶叫が漏れてくる。
がぁぁぁぁぁぁl!!!!
とか
ギイイィィィィl!
とかすっごい断末魔が聞こえる。
途中で大きめの個体が入口からチラッと見えたけどすぐに火だるまになって死んだ。
この魔法陣は敵味方の区別がつかないから、こういう時にしか使えないのだ。
この辺りで俺は重大な問題にぶち当たる。
「中の死体処理どうしようか・・・・」
最初っから洞窟の奥まで火炎放射するのが早かったかな?
ほっといて腐って病気をまき散らしたりしたら嫌だし・・・。
土葬でいいか?
周囲の土を操り洞窟の中に放り込む、
ミッチミチに入れてカッチカチにする。
足でつついてみるが崩れてこない。
「おっけい!」
これで後はバクテリアとか虫とかに死体の分解を任せよう。
その後は周囲一帯を【浄化】する。
そして風魔法で一体の空気を巨大シマエナガとは逆方向に飛ばす。
ここで鼻つっぺを外す。
すーっ!
「まだ少し臭いけどほとんど感じないな。」
これで任務完了。
アンナ達の元に戻る。
皆の元に戻るとアンナ達は巨大シマエナガの体毛をもそもそやっていた。
「何してるんだ?」
「おかえりなさい!」
アンナが元気に返事してくれる。
「この鳥の毛づくろいだよ。」
ピイィィ!
いつの間にか仲良くなったみたいだ。
「終わったよ。」
「一応確認してきてくれ。」
『わかった!』
鳥がそう言うと小さい翼でパタパタ飛んで行った。
待っている間、いつの間にか俺の頭の上に小さいシマエナガが止まっていた。
小さいって言うか普通サイズだけど。
ピィ!
「ん?」
「アイツの子供か?」
ピィ!
そうだよ!とでも言いたげに頭の上で鳴く。
「今まで隠れていたのか?」
ピィ!
「生まれたばかりの子ですかね?」
アンナがそうつぶやく。
「さー?」
試しに果物を小さく刻んで大きめの葉っぱに乗せて渡してみる。
「食うか?」
手に乗せてそう言うと。
小鳥は俺の手に乗って刻んだ果物を食べ始めた。
「お前モフモフだな。」
軽くなでてみる。
「かわいい!」
アンナもこのモフモフにメロメロなようだ。
そんな事をしていると親鳥が戻ってきた。
目の前に優しくポフン!と着地する。
『全部綺麗になってた!』
『ありがと!』
親鳥は羽を広げる。
「おう!じゃあ約束通り薬草採取してもいいかい?」
俺がそう言うと、親鳥はピィ!と一声あげる。
『いいよ!』
『君の友人なら、いつでも取ってっていいからね!』
「ありがとね!」
「よし!それじゃあ、薬草を取りに行こうか。」
「おお!話は付いたのかい?」
「はい、俺の友人であればいつでも取ってっていいとの事です。」
「おやおや、それはありがたいね!」
「早速行こうかね。」
って事で薬草を探しに行く。
暇だったのか親鳥と小鳥がついて来た。
親鳥は後ろからのっしのっしとついて来る。
小鳥は俺の頭の上でうつらうつらしている。
「おい、ウンチするなよ?」
小鳥が落ちない様に揺れない様に歩く。
「この辺りだ!」
バーさんが草を指さしながら言う。
「これを採取すればいいんだな?」
「ああ、根っこを千切らない様に取ってくれ。」
「はーい!」
そして取りつくさない様に薬草を採取する。
スイとエンが同じ匂いがする場所まで案内してくれたおかげで、
群生地をいくつか見つける事が出来た。
「おー!沢山とれたよ!」
「ありがとうね!」
ユキに付けた二つの籠いっぱいに薬草を採取できた。
『もーいいの?』
「うん、もう十分とれたからいいよ。」
『また来てね!』
「いつ来れるか分からんけどまた来るよ。」
俺がそう言うと頭の上の小鳥が親鳥の体毛の中にうずもれていった。
「え?戦闘中ずっとそこにいたの?」
コクリと親鳥はうなずく。
「あぶなくない?」
「まあいいけど。」
「じゃあな!」
そうして巨大純白シマエナガの親子と別れて馬車を回収して帰路に着く。
「あんたさんは魔物と話しができるのかい?」
「なんか、うっすら分かるんですよ。」
「ふーん、やっぱりアンタは変わってるね。」
帰り路は何事もなく町に着いた。
バーさんの家に薬草を運び依頼表を記入してもらう、
その後協会で報告をして以来達成となる。
依頼料は思ったより多かった。
収穫した薬草と比例して依頼料も増えたらしい。
バーさんは今後、収穫に行きやすくなったと喜んでいた。
俺とアンナは宿に帰る。
「なぜヒロさんだけ会話出来るんですかね?」
宿に帰る途中、アンナが唐突にそんな事を言い出した。
「それは本当に分からん。」
多分太陽さんが関係してる気がするがマジで分からん。
「不思議ですね!」
「ユキさんやワンちゃん達とも意思疎通出来ていますし。」
「うらやましいです!」
「うーん、そう言われましても・・・」
その日の夜は、アンナがスイとエンにひたすら話しかけていた。
スイとエンは困った顔でこっちを見ていたが我慢してもらった。
シマエナガっていう鳥がいるんです。
めっちゃ可愛いので見てみてください。




