21 墓標
前書きは特になし。
その後はジャックさんが物資を配りに行った。
ユキが引いていた馬車をボリーに変えて、2頭の馬と物資を連れて行った。
「さてヒロ。」
とマーシーちゃんが真面目な顔で俺を見る。
「ワンちゃんを埋葬してあげましょう。」
そうして俺は母犬を埋葬することにした。
エリーさんはもらった物資を片付けるとの事で、それ以外のメンバーで埋葬することになった。
遺体を運ぶのに【収納】に入っていた小さめの荷車を出してユキにつなぐ。
「さっきもそれ使ってたけど、アンナちゃんは魔法の事知っているの?」
とマーシちゃん。
「うん。盗賊のキャンプを片付ける時にうっかり見られちゃった。」
と俺が答える。
アンナはあきれた顔で付け加える。
「警戒心が足りないようでしたのでしっかり注意しておきました。」
そしてマーシーちゃんからは『こいつまたかよ・・・』みたいな目線が俺に突き刺さってくる。
丁度荷車をつなぎ終わった。
「よし!母犬を乗せようか。」
誤魔化すようにそう宣言する。
俺が丁重に母犬を持ってくるがやはりとても重い。
荷車に乗せると双子たちも行きたがったので共に荷車に乗った。
気まずいかと思った。
しかし双子たちは道中ずっと母犬を姿勢よく座って眺め続けていた。
何を思っているのかは分からなかった。
しかし何かを考えている、そんな風に感じた。
行く場所は皆で遊んだ所。
村の近くにある開けた平原、その近くにある小高い丘。
そこには大きめの岩が地面に刺さっていた。
周囲には似つかわしくない岩だった。
「へー!」
「あの平原の近くにこんな場所があったのか。」
この場所はさっきマーシーちゃんから聞いた場所だった。
「そう!」
「たまにみんなでここで綺麗な眺めを見ながらゆっくりするのよ。」
そういってマーシーちゃんが見ている方向を見るとそこには村のほとんどを見渡せる景色が広がっていた。
「この場所なら、ゆっくり眠れることでしょうね。」
とアンナも言ってくれる。
「ちょうどいい岩もあるしあれを墓標代わりにしようか。」
そう提案する。
「良いと思う。」
「賛成です!」
「「ワン!」」
と皆賛成の様だ。
それにユキもうなずいていた。
今回はあえて手で掘ることにした。
別に急いでいるわけでもないし、気分的に手で埋めてやりたかった。
皆も道具を使って手伝ってくれる。思ったよりも早く終わった。
遺体を穴に優しく寝かせる。
「さて、燃やすぞ。」
そういって俺は魔法で炎を出して、ゆっくり母犬を燃やす。
皆はそれをじっと見守る。
その時間はとても長く感じた。
親しい者を埋葬するのは二度と御免だ。
そんな思いが、頭の中をぐるぐる廻っていた。
そうして骨になった遺体に土をかけていく。
埋め終わったら地面をある程度固めておしまい。
その後双子の子犬達はしばらく墓標の前で座っていた。
俺たちはそれを見守るようにすぐ後ろで腰を地面におろして待つ。
暫く経った後、子犬達は俺の前に座る。
その雰囲気はかわいい子犬と言う感じではなかった。
そうしていると、母犬やユキと同じように思いが伝わってきたような気がした。
俺は双子に向かって声をかける。
「俺はこの国や世界を回る。」
「危険な魔物や動物、さらに危険な人間とも戦う事が有るかもしれない。」
「だからこの村に残ってもいいんだぞ。」
俺がそう言うと双子はすぐに否定するように決心した事を伝えるように吠える。
俺は少し考えてから答える。
「わかった。一緒に行こう。」
俺がそう言った後、双子は凛々しく吠えた。
そしてすぐにいつもの調子に戻り、胡坐をかいていた俺に勢いよく飛び込んでくる。
尻尾を振りながら俺の顔を舐め回す。
こいつらは、子犬と言っても大型犬の子犬で、すでに産まれてからかなり経過している。
つまり中型犬くらいの大きさはあるのだ。
そんなのが二頭いきなり飛び込んできた。
予想に反して大きくなっていた子犬の重さに耐えきれずに後ろに倒れてしまう。
「おわっ!」
しかし双子は気にせずに顔をペロペロ。
「ちぇ。可愛い子犬を飼えると思ったのに。」
そう言いつつもうれしそうに子犬の頭をなでるマーシーちゃん。
それに対しアンナは何やら考え事をしていた様子だった。
ちなみにユキも心なしか嬉しそうな表情だった。
危険な旅になるかもしれないが、母犬の様な猟犬になってくれれば大きな助けになる。
それにいつでもモフモフできるのはとてもうれしい。
ひとまず作業を終えて道具と荷車を【収納】にしまう。
帰りは歩きだったが、双子はどうやって乗ったのかユキの背中に上手に乗っていた。
のんびり歩いて帰る。
色々やっていたので夕暮れ時だった。
とても綺麗な夕日が母犬のいない寂しさを紛らわしてくれた。
家に着き、ユキの手入れをして馬小屋に戻す。
子犬達も綺麗にしてから家に入れる。
自分の体を洗ってから夕食までもう少しかかるらしく子犬達と待つことにした。
「お前たちに名前つけなきゃな。」
俺がそういうと子犬達は来た!って顔でこっちを向く。
この子らは基本真白な毛だ。
しかしそれぞれ赤と青の模様がある。
目の下と足周辺、それに尻尾も長くうっすらと模様がある。
マジで何犬か分らん。
異世界特有の犬種だと思う。
デカい柴犬か細身の秋田犬か。
犬好きと言っても犬種に詳しい訳ではない。
母犬は大きめの秋田犬くらいだと思う。
色々考えたがシンプルな方がいいだろう。
一応青い方がしっかり者で赤い方がお転婆気味。
冷静な青元気な赤って感じ。
青い方は水か空の様な青。
赤の方は火や炎の様な赤。
「よし!」
と言って青い方を掴み上げる。
「今日からお前はスイ!」
みずです。
スイを下して赤い方を掴み上げる。
「今日からお前はエン!」
ほのおです。
そういってエンを下す。
「わかったか!スイ!エン!」
そう俺が言うと順番にスイとエンが吠える。
「ワン!」
「ワン!」
丁度近くにいたアンナとマーシーちゃんが拍手をくれる。
「短くてわかりやすい良い名前!」
とマーシーちゃん。
「おめでとうございます。」
とニコニコのアンナ。
それを見ていたジャックさんが一言。
「名前つけてなかったのかよ。」
そんな事を一人でぼそっと言った。
そうして夜ご飯の時間。
いつも通りおいしいエリーさんの手料理。
アンナもおいしそうに食べている。
食事が終わるころアンナと真面目な話をする。
「アンナ」
と俺。
「はい?」
とアンナ。
「アンナの帰る家はここから遠いのか?」
そう俺が質問すると難しい顔をしてアンナは答える。
「はい・・・」
「実は家は王都にあるのです。」
それを聞いていたジャックさんがめっちゃ驚いている。
「王都!!?」
ジャックさんが驚きつつ聞き返す。
「はい」
「職務で遥々王都から視察に来たのですが、運悪く盗賊に襲われてしまったのです。」
そう答えるアンナ。
実家は大きな街位に考えていたがまさか王都とは。
「帰る伝手とか方法はあるのか?」
俺。
「いえ・・・。」
そう答えるアンナ。
そして俺の目を見て言う。
「ヒロさんは旅をしていらっしゃるのですよね?」
「まあそうだね。」
と答える俺。
「であればどうかわたしを王都まで送っていただけませんでしょうか?」
アンナは改まって頭を下げる。
まあ家までは送るつもりだったが、王都って?
「すまん、土地勘が無いので聞きたいんだけど王都って遠いのか?」
アンナが答える。
「はい。かなり遠いです。」
それにジャックが付け足す。
「アホほど遠いぞ。」
説明になってないがめっちゃ遠いらしい。
まあそのつもりだったし、アンナはこの国に詳しそうなのでちょうどいい。
王都まで案内役が出来たと思えばいいか。
「良いぞ。」
と軽く答える俺。
それを聞いて嬉しそうにするアンナ。
しかしジャックさんは難しい顔をしている。
「ジャックさん?」
気になって聞いてみる。
「でもヒロの身分証的なものが無いだろ?」
とジャックさん。
「あっ!」
そう。大きな街や都に入るためにはそういった身分証が必要なのだ。
この国では市民や村人は身分証を持っている。
しかし旅人やよそ者などの身分証のない者は大きな街に入る事すらできない。
他国から来た身分の怪しい者がこの国で自由に動き回れない様になっている。
考えてみれば当たり前だ。
「この前、身分証代わりになるハンター証があるって言っただろ?」
ジャックさん。
「はい」
そうだそれがあった!
だがジャックさんは説明する。
「そのハンター証が身分証の代わりになるのは、ある程度位が上がってからだ。」
・・・。
「ましてや王都となるとさらに上の位が必要だって聞いたことがある。」
ぎぎぎぎぎ。
と音を立ててアンナの方を見る。
しかしアンナは驚いた様子ではなかった。
「実は私も身分証を失ってしまったので、ヒロさんと私でのんびりランクを上げつつ王都に向かうのはいかがでしょうか?」
あの盗賊に襲われたときにでもなくしたのだろうか?
それなら別に問題ないか?
「いやいやいや!」
「アンナはハンターできるの?」
明らかに箱入り娘なアンナには無理じゃね?
「こう見えて少し鍛えているので剣術なら多少は使えますの。」
とお上品に答える。
お上品に答えることで言葉に信憑性は無い。
「ま、家に帰るまでだしそれで問題ないか。」
別にハンターを本職とするわけでは無いしね?
身分証を得るまで誤魔化しつつでいいだろう。
「という事でジャックさん!」
と改めてジャックさんの方を見る。
「なんだ?」
とジャックさん。
「明日にでもここを出ようと思います。」
そう告げる。
「まあまて。」
とわかってたかのようにジャックさんが答える。
「今日もらった物資の中の物でお前のマントを少し、いじってやれるから明日一日だけ待て。」
とジャックさんが言う。
「わかりました。」
と俺は答えた。
「アンナもそれでいいかな?」
とアンナの方を見て質問。
「はい!よろしくお願いします。」
と改めてお辞儀するアンナ。
マーシーさんはブーブー言いながらまたこの村に来てね!
と言ってくれる。
そんな様子をニコニコしながらエリーさんが眺めている。
その晩はアンナはマーシーちゃんの部屋で寝ることになった。
子犬は俺と一緒だった。
気のせいだと思うがスイはひんやり、エンはぽかぽかしていたようだった。
ハンター登録すれば身分証になり各地を行き来できるわけではありません。
お行儀よく仕事を続けて実力がある程度なければちゃんとした身分証になりません。
旅人などの身元不明人には少々厳しいのです。




