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第五話 輝く

 日が赤くなる頃、僕らは拓けた場所に出た。僕が火を焚いている間にカバネがうさぎを狩ってきた。パチパチと燃える焚き火の横。うさぎを解体するカバネの手元を照らしながらその様子を眺めた。火で照らされた顔と解体する手際の良さに彼の生きた道が見えた気がした。少なくとも僕とは全く別の人生を歩んでいるに違いない。焼いたうさぎの肉はこれまで食べたものの中で一番美味しかった。

 テントも幕も持っていない僕たちは野原に寝転がり交代で番をすることにした。まずカバネが番をし、月の明かりが照らす頃に起こされて番を交代した。不思議とあれから魔獣の姿は見えない。少し期待はずれではあるが、戦わないでいられるのは好都合だ。抱えた剣に視線をやるとまるで眠っているようで、起こさないように静かに息を吐いた。向こうでは耳にしない生き物の鳴き声が聞こえる。ここに来るまでもそうだったが目新しいものばかりだ。木の間から風が吹き込んでくると次第に勢いを増し、木の葉がザワザワと震え出した。あまりの風の強さに目を細めると遠くの木の下にぼんやりと何かの姿が現れ始めた。人のように見えるが、気配がそうは思わせなかった。何かがこちらに近づいてくる。風が吹き荒れていることもあって立っているのでも精一杯だ。カバネに目を向けると彼は全く風に靡かれることなく異質なオーラを放っていた。強い風の中で何度か彼を呼んだがこちらに気づく様子はなく、まるで透明な壁があるかのようだった。もう一度前に向き直ると影の数が増え、大小様々な形がこちらに近づいてきている。僕は剣に鞘をつけたまま構えることしかできなかった。後ろのカバネに注意を払うこともできず近づいてくる影を剣で払う。しかし、姿が揺れるだけで直接的なダメージは入ってなさそうだ。姿を払うことで風が弱まってくると影が声を発していることがわかった。


_____じゃない


 カバネに近づけまいと動いているせいで聞き取れない。疲労と勢いで段々と後退りしてしまう。このままじゃカバネが。そう思い踏ん張って力いっぱい影を薙ぎ払うとあろう事か複数の影が僕の手首を掴み、こう叫んだ。


「「___お前じゃない!」」


 気迫と予想外の言葉で呆気に取られる。ふわりと包むように柔らかい風が吹き、静寂が訪れた。影たちはカバネに近づき彼に手を伸ばす。


「カバネ!」


 風が弱まったことで声が届いたのか彼は飛び起きると短剣を振り影を払った。その瞬間影が姿を変えて闇に紛れる暗い色から明るい色へ光だした。姿は朧げな輪郭の影から人の姿に変化し、心地よい笑みを浮かべたかと思うと空に吸い込まれるようにして消えていった。金細工が割れて空に散らばっていったようにも見えて、今まで見たどんな景色よりも輝いていた。


「なんだこれ。」

「今のはアンデッドだ。未練残ったまま死んだ人は全員あれになる。老い若い関係なくな。」

「アンデッドもそうだけど、今の光。ただの除霊じゃないよね。」


 以前、教会かどこかで除霊術を見たことがある。光る雨粒が逆流しているような非日常的な光景で感動したのを覚えてる。ただ、カバネの方が何倍も光っていた。眩しいほどだった。

 鼻から息を吐くと、カバネが話し始めた。


()()()とかではない。そもそも除霊じゃないからな。」

「はぇ?今のが除霊じゃない?相手はアンデッドなんでしょ、アンデッドは除霊しか効かないって読んだことあるよ。」

「だいたい霊なんてものはこの世に存在せん。あれは見たい者が見る幻だ。」

「じゃああれはなんなのさ。さっきのアンデッドはカバネの攻撃で消えただろ。」

「……知らん。気づいた時にはこうだった。攻撃すれば消える。それだけだ。」

「それを除霊って言うんじゃないですかねえ。」


 夜も深まっていくばかり。僕たちの目は完全に覚めていた。カバネが近くの木に吊るした謎の球根のようなものは人外よけらしく嗅覚に自信のない僕でもわかるくらい異臭を放っている。


「成分が何かは聞かない方がいいだろうね。」

「人体に悪いモンは入ってない。人外に喰われて死ぬよりマシだ。」

「そりゃそうだけどさ、はぁ。」


 わざとらしくため息を吐くもカバネは一寸も気にしていないようである。除霊の謎も解けてないし、今までの常識が通じなさすぎる彼に困らされる未来がみえて、僕は心の中で頭を抱えた。

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