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第二話 墓参り

 いつものように酒場の方へ降りていくと、少し豪華な朝食が用意されていた。机の上にはいつもはない綺麗で可愛らしい花が飾られている。キッチンの方からリーリさんが顔を出し挨拶をしてくれると、大きな声でユーリちゃんのことを呼んだ。その後リーリさんの後ろに隠れるような形でユーリちゃんがやってきた。


「ほらユーリ。お兄さんに挨拶は?」


 そう言われて小さな声で挨拶をしてくれたユーリちゃんに僕も挨拶を返す。自分もまだ子どもながら子どもはかわいいと思う。僕からの返答を受け取った彼女はさっさとキッチンの方へ逃げていってしまった。


「あ、。」

「恥ずかしがり屋は治んないね。あれでもずいぶんマシな方さ。さ、ご飯食べな。」

「はい!いただきます。」


 いつもはトーストだけの朝食に今日は焼いた厚切りの塩漬け燻製肉、そしてサラダが添えられている。

 うまい。

 朝から肉なんて嬉しいことこの上ない。皿を綺麗にして、キッチンの方へ持って行きお礼を言う。奥にはリーリさんの旦那さんも見えたため改めてお礼を言う。


「明日ここを発つと聞いた。」


 興味のないような顔は彼の標準装備である。この酒場の料理担当である彼はガタイがよく、僕より幾分も背が高い。後ろにユーリちゃんを完全に隠した彼の目線は意図はなくともこちらを突き刺しているようで正直言って圧の塊である。


「はい。今までお世話になりました。」

「あの部屋は空けておく。」


 言葉足らずだとよくリーリさんに怒られているところは見ていたが、本人を目の前にするとさらにそれを実感した。きっとこれはいつでも帰ってきていいと言う彼なりの言葉なのだろう。


 「あ。ありがとうございます。」


 旅について励ましの言葉ももらってから屋根裏部屋へ帰ると僕は出立の準備を開始した。

 旅用の荷物は全て鞄一つに収まった。書物類など旅に持っていかない物はこの後売り払うつもりだ。準備がひと段落した僕は剣を背負い、外へ出た。

 実は昨日、弔う会と同時に商会に寄ってあの家を査定してもらっていたのだ。元々物が少なかったので遺品整理も昨日のうちに済ませている。と言っても家具はまだ置いたままだ。査定してくれた商会に足を運び金銭を受け取る。

 思っていたよりお金にはならなかったか。

 置いたままの家具については商会側で処分してもらうことで解決した。商会を後にした僕は書店に向かった。


 「こりゃ売値が付かんな。」


 鑑定するまでもなくそう断言された。僕が書店のおじちゃんに出したのは歴史書と有名な絵本一冊である。

 やっぱり無理か。

 歴史書と言ってもただの教養本で学徒なら誰でも持っているようなもの。絵本は絵本で糸で縫合されどこの誰が見ても古びているものである。


 「それでもいいです。引き取ってくれませんか?」

 「まあ構わんが。こんなに縫い合わせてるのを置いてってええんか。」

 「はい。お願いします。」


 おじちゃんはこちらを気にしながらも渋々受け取ってくれた。旅に出る身としては少しでも身軽にしておきたい。それに僕にはもうどっちも必要ない。僕は次の客と入れ違いになるように店を出て花を買いに向かった。

 向かった先は広場。ここには多くの出店があり、中には花を売っている店もある。

 けど花より先に。

 小腹が空いた僕は匂いに釣られて気付けば串焼を頬張っていた。このタレが美味いな。普段は飽きてくるあのブニブニとした食感も噛めば噛むほど味が滲み出て病みつきになる。食べ終わって一息つき、やっと花を見る。荷車に溢れんばかりに乗った花。知識がない僕には綺麗なことしかわからない。とりあえず二輪一束になっているものを買い、墓地へと向かった。


 墓地はこの街を囲っている防壁の外に位置している。大きな門を通り過ぎてすぐ、白い柵に囲われた墓地が現れる。人気なく、ただ整然と並ぶ墓を眺め僕は大きく息を吐いた。

 防壁側の奥から二番目。僕は父と母が眠っている墓にそれぞれ花を一輪ずつ置き、祈るでもなくただ立ち尽くした。僕の父母が亡くなったのはもうずいぶん前のことだった。記憶ももう朧げになるくらいに。

 墓に参るのなんて久々だな。僕、もう結構大きくなったよ。母さん、父さん。

 二人の墓を前にして感傷的な気持ちになっていると人の気配がした。


「あんた、新しい勇者だろ。」


 妙に頭に響く声がした方へ向くと、年は僕と変わらない位か少し若い青年が立っていた。


 なんだこの怪しいヤツは。

 丸刈りで学院の生徒のような全身黒い衣類を身に纏っている彼は僕のこともじーちゃんのことも知ってるようだ。


「誰?」

「ここの墓守してる、カバネ。勇者のカロシマってあんたのことだよな。」


 よろしくと言いながらこちらに構わず握手をしてくる彼。

 カバネという名前の知り合いがいた記憶はないし、ましてや墓守という職業は僕からしたら珍しいものだった。墓は今居る場所である防壁の外か、王宮内にある王族専用の墓地しか存在しない。どちらの墓地にも知り合いが居た記憶はない。ただカロシマというのは間違いなく僕の名前だ。肯定すべきか否定すべきか迷っていると、近くに寄ってきた彼が先に口を開いた。耳元でこう言った。


「……あんたのジーちゃん。寿命じゃあないな。」

「はぁ、?」


 何を言い出すかと思ったらこいつ変なヤツだな。

 だが、目の前の男はいたって正気のようだ。顔色は変わらず淡々と事実を述べているように話を続ける。


「あんたが殺したろ。」

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