ep.01
夏の午後、肌を刺すような日差しが全身を蝕んでいく。
クマゼミの鳴き声が窓のすぐ横にある木から響いていて、それだけが木霊する部屋にいるとだんだん何も考えられなくなっていくような感覚になる。
おれはエアコンもない部屋の押し入れの中で、絶対にあるはずの父さんの大きなリュックを探していた。
それを見つけた頃には汗で服が身体に纏わりついていてすごく気持ち悪い。
しょうがないから涼しい自分達の部屋にリュックを投げ込んで、新しい服をクローゼットから引っ張り出してお風呂場に駆けこんだ。
冷たいシャワーは暑い今日みたいな日には気持ちよかったけど、やっぱりすぐに寒くなってきて蛇口を逆に捻る。
放っといても乾くだろうと適当にタオルで水気を取って、黒と赤のお気に入りのTシャツに着替え動きやすいズボンを履く。
もう一度2階に戻るとやっぱり蒸すみたいに暑くて、できるだけ早くクーラーのある部屋にと駆け込んでしまった。
さっき見つけ出したリュックの中には、今まで貯めてきたお小遣いとリビングの棚から取ってきたクッキーやお菓子、何着かの洋服と、あとは必要そうなものとか大事なものだけを詰めて一旦椅子に置く。
ただでさえ大きいリュックは目一杯荷物を詰め込んだせいで、見るからにおれには不相応なサイズになっていた。
探し物に、シャワーに、荷造りに――と散々動き回っていたせいですっかり忘れていたはずの空腹を思い出したおれは、冷蔵庫にあった母さんが準備してくれていた素麵を取り出し水にさらす。
「あ、水だ」
それでリュックに水を入れ忘れていることに気付き、流れ続ける水もそのままにペットボトルをリュックへ入れに2階に戻った。
キッチンに戻ると素麺が水の勢いで溢れていきそうになっていて慌てて水を止める。
水を切って素麺をお皿に乗せ、冷たい麦茶とともに机に置きテレビをつけた。
今の時間は大好きなバラエティ番組がやっているはずだ。
こうやって休みの日にしかリアルタイムで見ることができない大好きな番組を聞きながら、いつもと違って黙々と素麺を食べる。
「ん、ごちそうさまでした!」
ぱちんと手を合わせ、目を閉じて、いつもより丁寧なごちそうさまだ。
好きな番組の途中だがテレビを消して、お皿をキッチンに置き、さっき準備した大きなリュックを背負う。
よしと意気込んだ時にいきなり鍵のかかった玄関のドアが音を立てたので、思わずびくりと肩を震わせた。
「おにいちゃーん! あーけて!」
弟が学校のプールから帰ってきたらしい。
本当はおれも行かなきゃなんだけど、6年生にもなって行ってる友達なんてほとんどいないから、結局おれも理由をつけて行かないことの方が多かった。
「ちょっと待って!」
そう叫んでからリュックを裏口からこっそり外に出しておいて、やっとドアの鍵を開けに行く。
そのまま靴を履き、弟と入れ替わるように外に出た。
「おにいちゃんどっか行くの? ぼくも行く!」
「だめ! おれ友達と約束してんの、じゃ いってきまーす!」
そう一度走って角を曲がってから、陰でこっそりと弟がドアを閉めるのを確認する。
バレないようにこっそり裏口に周りリュックを背負うと、おれは眩しい太陽の下、街へと繰り出した。