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睡蓮  作者:
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最終話 始まりの終わりと終わりの始まり

「あなた洋一くんでしょ?」


警察官の一人が苦笑いを浮かべた。


「老師、バレました」


「うむ」


そう言って二人の警察官は帽子を取った。


「洋一!」


和馬がおもわず叫ぶ。


「・・・いや、老師が実験をしたいって言うもんだから」


「なんの実験だよ。じいさん」


和馬が老師を問いただす。


「あっ!空手師範!」


孝之が老師の顔を見て思い出したように叫ぶ。


「律子さん。僕には何がなんだか・・・」


「あっ、マイケルは大丈夫。気にしなくてこの状況を見ていればいいから。あなたたちも」


桜子はマイケルを落ち着かせた。


「おっさん、警察ってのはこいつらのことだったのか?」


和馬が山村に問いかける。山村は首を傾げた。


「・・・あ、いや。どういうわけか」


「パパどういうこと?」


響子も山村を問い詰める。


「・・・実は、君たちが言い争っている間に外に出ていたんだ。タバコを吸いにね」


「パパ!タバコなんか吸わないじゃん!」


「・・・いや、実は吸っていたんだ。か、隠していてすまない」


「ショック・・・」


響子はうなだれた。


「でも、あたしもエンコーとか、もっとショックなこと隠してたしね。お互い様か」


「そんなことはどうでもいいから、じいさんと洋一がなんで警官なんだよ!」


和馬は苛立ちを覚えた。


「あ、ああ・・・実はそこでその老人に言われたんだ。この家に『愛』はありそうか?と。よくわからない、と答えたら。『警官を呼んだ』とだけ伝えてくれ、と言われたんだ。それで私はこの家に戻った」


「ここからは俺が話すよ」


洋一が声をあげた。


「そしたら老師が『警官になるから待ってろ』って言うから待ってたんだ。そしたら警官の制服二着持ってきて俺に着ろって言うの。で、後はご存知の通りさ」


「じいさん。何がしたかったんだよ」


「わしはいくつに見える?」


「はあ?」


老師の突然の質問に和馬は戸惑った。


「しらねーよ」


「こう見えて七十を越えるおる。しかし、誰もこんな年寄りに見えなかっただろう」


「老師は若いですから」


洋一の言葉に孝之が首を傾げた。


「でも、俺が見た時はわりと年寄りに見えたぞ。空手師範」


孝之の言葉に老師は不適に笑った。


「誰の視点も正しい。わしは七十を越えておる。洋一はわしを七十には見えないと言う。そこの青年は年相応に見えたと言う。それが己の価値観じゃ」


「だからなんだよ!」


「和馬よ。この家に『愛』はあったかの?」


和馬は首を傾げた後、怪訝な顔をした。


「相手を想う気持ちってやつだろ?あるような、ないようなって、感じじゃないか。そこの親子はなんかお互いの秘密を許してるみたいだし。外人野郎と奥さんは久々の再会で楽しそうだし。でも、俺はこいつを許しちゃいない」


向井を睨みつける和馬を見て老師が微笑む。


「あと、孝之だっけ?西門寺ともめてるし。まあ、智子さんと妹さんが入っておさまってるが。だから半々って感じかな・・・『愛』については」


和馬は少し冷静な顔を取り戻した。


「和馬。よう『愛』を理解したのう。『愛』とななんぞや、『愛』を馬鹿にしておったおぬしがな。人はな、考える生き物なんじゃ。考えることが大事なんじゃ。それをわしは教えたかった。わしが警官の格好をしておるのはみんなの反応を見たかったからじゃ。桜子さんの様な『罪を憎んで人を憎まず』という感性の持ち主もおると知り、わしはまだまだこの国には希望があると思えた」


老師は桜子に視線を送った。桜子はゆっくり口を開いた。


「実は私も大昔に万引きの常習犯だったことがありまして・・・」


一同は言葉を失った。


「最初は金欠が原因でしたけど、そのうち刺激に変わって何度も繰り返すようになったんです。今はもう平気ですけど。彼を見ていたら昔の自分を思い出してしまって・・・」


老師はゆっくり頷いた。


「誰にでも過ちはある。大事なのは許す心じゃ。それ以上に心の余裕というものが大事じゃ。自分を信じる心。自分を誇れる心と、何が起きても自分は大丈夫という心の余裕が大事なんじゃ。本当の『愛』とはそういうものじゃの。先輩」


老師はゆっくりと一人の男を見つめた。


「先輩?」


洋一が不思議な顔をしてその方向に視線を送る。

和馬、山村、智子、西門寺、響子、桜子、美弥、マイケル、孝之、向井。


「これが食物連鎖の頂点に立つ人間たるゆえんだな。思考と選択。あなたたちはどう感じた?」


一同は言葉を失った。


「あなたは何を感じた」


向井が悔しそうにつぶやく。


「俺より存在感消すの上手い奴がいたんだな」


眼鏡と着物が誇らしげに揺れた。


「さて、この世界は学びに満ちている」


どこから手に入れたのかもわからない花を握りしめている。


「花はいつか枯れるように。生命は儚い。あなたたちはこの生命をどう終わらせるのだろう。どう繋げていくのだろう。考えてみてほしい」


一筋の光がその花に差し込んだ。


着物を着た男の眼鏡もその光を浴びた。




                  (了)










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