転機
「少し持っていてくれ。プリンセス」
マイケルはロープを響子に渡した。嫌々ながらも『プリンセス』という言葉に悪い気はしなかった。
「警察に電話しようとしてたのに。少しだけですよ。逃げんなよ。ストーカー」
「ギャルには興味ない。女は清楚じゃなきゃ」
「あっそうですか。あたしだってあんなみたいなストーカー興味ないし。ダセーことしてんじゃねーよ」
響子は西門寺を睨みつけながら、歩き出すマイケルに視線を送る。
「倒れている人を助けなければ」
マイケルがリビングに入ろうとする。
「いや、下手に動いたら和馬がどうなるか・・・」
洋一が不安げに言う。
「じいさんを呼ぶか?空手家なんだろ?」
山村が洋一に尋ねる。
「あっ!その手があったか!合気道も心得てるかもしれない」
「アイキドウ?」
マイケルが首を傾げる。
「あ、ああ。手を触れずに相手を倒すやつ。なんていうのかな、超能力だ!」
「グッド!」
マイケルは手を叩いた。その音に向井が反応する。
「いつまで隅でくっちゃべってるんだ。こいつがどうなってもいいのか?早く警察に連絡しろ。身代金を要求してやる」
「大胆な奴だな。自分から警察を呼べなんて」
「彼の目的は金か」
「拉致なんてしたってすぐ捕まるのにな」
「まあ、冷静な判断ができないのだろう。警察を呼ぼう」
山村がスマホを取り出す。
一同が一安心していると、むくっと起き上がる智子。ぼやけた視界に映るのは包丁を和馬につきつける向井の顔だった。
「きゃーーー!」
その声に桜子と美弥も目を覚ます。
「きゃーーー!」
桜子もこの光景を目の当たりにして叫んだ。
「きゃーきゃーきゃーきゃーうるせぇんだよ!こいつがどうなってもいいのか」
向井に抑え込まれる和馬。ナイフがこすれ少しだけ首から出血した。
「きゃーーー!血が出てる!」
智子が和馬を指差した。
「へ、平気だから俺は・・・」
和馬はなだめるように智子に言った。
「いいか!早く警察を呼べ!あっ、先に交渉か。ネゴシエーターて、のに憧れてたんだよね。そいつと話せるのかな」
向井は嬉しそうに天井を見つめた。
「いくらくらいの身代金なら一生暮らせるんだ?逃亡費とかもろもろもらって」
一瞬だけ和馬をつかむ向井の手が緩んだ。
和馬はその一瞬の隙をついて手を押さえ込む。あっという間に攻守が逆転した。
「あっ、ちょっと・・・」
「あんたがアホで良かったぜ」
和馬は包丁を掴み向井に向けた。




