出発
洋一はニット帽から事情を聞くと納得こそしなかったが、嘘をついているようにも見えなかった。
「でさ、あんたの言うことは、あ・・・西門寺さんの言うことは分かるんだけど、それで俺たちと一緒に来たいってこと?」
「もしかしたら、妹なんじゃないかって思うんだ」
「話が飛躍しすぎなんだけど、なんでストーカーされてた女の子が西門寺さんの妹なわけ?」
「直感だよ!」
西門寺のその言葉に洋一と和馬は目を合わせた。どこかで聞いた言葉だった。それはスーツ姿の男が言っていたセリフだった。「直感」という抽象的なその言葉に洋一と和馬は理解に苦しんだ。
「・・・どうする?和馬」
「俺はどっちでもいい。来たきゃこればいい」
「老師は?」
「お主達の心のままにじゃ」
洋一はもう一度、和馬の顔を見て西門寺にこう言った。
「その直感とやらを信じてみるよ。疑うより信じろ。だろ?老師」
老師はまだ優しく微笑んだ。
「じゃあ、さっそく行きますか」
四人は先ほどの家に向かって歩き出した。
しばらく、くだらない話をしていた。
「それでさ、奴は言うわけよ。『俺とお前は違う人間なんだ。俺が芋食べてお前からおならが出るのか』って、その言葉に説得力感じちゃって。確かに人はみんな違うもんなー」
「確かにそれは新しい発想だな」
「みんなが右に行くから右に行けば正しいというわけじゃないんだ。みんな都合よく自分が正しいと思う方を選択してるわけよ」
洋一の言葉に西門寺が相槌する。すっかり意気投合した二人を見て和馬はふと家族のことを思い出していた。
今頃、母親は自分を探しているだろうか。スマートフォンを見ても連絡がきた様子はない。
父親にまた暴力を振るわれていないだろうか。妹は無事だろうか。
和馬にとって妹を探している西門寺の気持ちも理解できた。
ふと後ろを歩く老師に目をやる。
「なんじゃ?」
和馬は妙な違和感を覚えた。
老師のすぐ後ろに一人の男がピタリとくっついているのだ。
最初こそ、ただの通りすがりかと思っていたが、明らかに老師の後をピタリと追っている。
「・・・じいさん」
「なんじゃ?」
「そいつ、誰だよ」
老師が後ろを振り返る。
「あ!ばれた?」
不気味な雰囲気とは裏腹に陽気な声で男は照れるように笑った。その声に洋一と西門寺もこちらを見る。
足が止まる一同。
「あ!いやいや!驚かせてしまって申し訳ない。競歩鬼ごっこの練習しててさ」
こいつは一体なにを言っているのか、というような顔で一同は男を見つめた。
「申し遅れました、私は向井と申します。歳は四十になりました。それでいま、家も仕事も無くなって途方に暮れているところでした。全部聞いてましたよ。ニット帽の彼とじいさま達が話している会話。気づかなかったでしょ?俺の存在。そういうのは得意なの。で、最近はパイオニアになろうと思った流行り物をつくろうとしてたの。それでたまたま見た競歩鬼ごっこが当たるんじゃないかと思ってやってみたのさ。案の定、みんな驚いたよね?これ流行ると思わない?誰にも気づかれずにどこまで進めるかって。いいでしょ!あ!拉致されてる女の子の家に行くんでしょ?さっさと行きましょう!」
マシンガンのように言葉を浴びせるその男に、一同は言葉を失った。




