西門寺の話
俺の話をしたい。
俺は三十五年間無職を貫いた。
すごいだろ?
普通のやつには到底できない偉業だ。
人は俺のことをこう呼ぶ。
神に選ばれた男と。
さあ、そこまではいい。
ところでなぜ俺が三十五年もの間、定職につかないで生きてこれたかって?
そりゃ家が金持ちだからよ。
親子関係が良好で今でも月に三十万の小遣いをもらってる。
家にはポチという愛犬もいて寂しくはない。
女?
ああ、高校の時に散々遊んだな。
金目当ての女ばっかだったから捨ててやったよ。
それにひきかえ動物は嘘つかないし、金目当てでよってこない。
まあ飯が目的なんだろうけど俺になついてる。
三十五年間彼女を作ることはなかった。
童貞かって?
当たり前じゃん。
心から愛した女としか俺はやらない。
俺にはポチがいる。
寂しくなんかない。
ただひとつだけ心残りは妹だ。
妹は行方不明になってる。
両親が必死に探しているが未だに見つからない。
もう一年になる。
少しばかりの可能性にかけて俺は毎日ニット帽をかぶっている。
なぜかって?
それはこのニット帽は俺の誕生日に妹がプレゼントしてくれたものだからだ。
もしかしたらひょっこり現れて「お兄ちゃん?」なんて声をかけてくれるんじゃないかって期待してるわけよ。
まあ、お前たち凡人にはわからないロマンチックな話だけどな。
しかし、さっきからあの女が気になる。
大学生くらいの男をじっと見つめているが知り合いだろうか。
よく見たらなかなか可愛らしい顔をしている。
まあ、彼氏でも待っているんだろ。
でも、もしそうなら、なぜずっと待っているのだろう。
さっさとその大学生に話しかければいいのに。
まあ俺には関係ない。
でも気になる。
話すだけ話してみるか。
彼女は大学生くらいか?
そうなれば妹と同じ歳くらいだ。
妹の手がかりもつかめるかもしれない。
そんな絶望的な理由で話かけてもいいのか?
いや、変なやつだと思われるか。
いざとなれば金で解決するか。
趣味はなんだろう。
好きな食べ物はなんだろう。
アルバイトはしてるのか。
なんのために働いているのか。
こんな俺、どう?
妹、知らない?
知るわけないか。
さっさとポチに餌をやるか。




