エッセイ9
「出ないと思うぜ」
と、和馬。
スーツ姿の男は言い返した。
「でる」
「いや、完全に警戒してただろ。あいつら」
「驚いてただけじゃないか」
「こんな知らない奴らが大人数で目の前に立ってたら俺だって無言でドアしめるぜ。怖いだろ」
「でも、彼女は確かにこの家にいただろ」
スーツ姿の男は得意げに和馬に言い放った。和馬は舌打ち交じりに洋一と目を合わせる。
「そんなことよりあんた慰謝料を払ってもらうぞ」
洋一の言葉にハンサム男は、またか、という顔をして首を傾げた。
「慰謝料の話はともかく、彼女がこの家に居るのはわかった。で、もし一緒にいた彼がストーカー犯だとしたら拉致されたということになる」
ハンサム男は洋一から視線をそらす。
「いや、彼はストーカーじゃない。背格好が違う。ニット帽の男はもっと小柄だった」
スーツ姿の男は断言するように頷きながら腰に手を当てた。
「・・・さてと、どうするかな」
「待ってても出てこないと思うぜ」
「でも事情を聞かないと。一緒にいる彼との関係も」
「恋人かなんかじゃねぇ?」
「いや、そんな感じには見えなかった。もっとよそよそしかった」
「そんなこと第一印象でわかんのかよ」
「私は市役所職員だ。公務員をなめてもらっちゃ困るよ。赤の他人を毎日見てるんだ。その中には悪意を持った人間も居る。一瞬一瞬に集中力が必要だ」
そう言って娘の響子を横目で見た。響子は我関せずの顔でスマホを見つめている。
「私に言い考えがある」
スーツ姿の男は道端に転がっている石ころを掴んだ。その石ころを玄関めがけて思いきり投げた。
ドンッという音が響いた。
「人は音に敏感だ。視覚がだめなら聴覚に働きかけてやる」
「ち、ちょっと。君!何やってんだ!これじゃ器物破損で捕まるぞ」
さすがのハンサム男も動揺した。
その音は想像以上に響いた。近所の人が出てきてもおかしくないほどだ。
「あいつぶっ飛んでんな」
「どうする?このまま帰るか?慰謝料まだもらってないけど・・・」
「はなからそんなのもん興味ないって言ってんだろ」
「じゃあ先生のとこ戻るか?」
「先生?あ、あのじじいのとこか?」
「そう!」
「こんなイカれた奴らとは関わりたくない。関係者と思われたくないし、さっさと行こうぜ」