エッセイ8
孝之は智子を見つめた。
「あっ、なんですか?」
「ストーカーに追われるほど可愛い顔ではないですよね?」
かなり失礼な言葉だと智子は思った。当然彼に対する好感度は再び下がっていく。
「あの、ご迷惑だったら私一人で帰れますから」
「いや、母親に言われてますし、チャーハンをご馳走になっておいて好きな時に帰りますは自己中すぎでしょ」
「あ、はぁ・・・」
「外には危ない連中もいますから」
智子は複雑な表情で靴を履いた。その時、インターホンと微かな話声が聞こえた。
「うん?誰かな?」
「なんか外が騒がしいわね。孝之出てくれる?」
「あいよー」
玄関の扉を開けると、スーツ姿の男が低姿勢で二、三回会釈した。隣にはハンサムな男と眼鏡着物男が立っている。
奥の方にギャルっぽい若めの女と同じように若めな男二人がたたずんでいた。スーツ姿の男が智子の顔を見て、
「あっ」
と、つぶやいたのを見て孝之はゆっくり扉を閉めた。
「ね?」
孝之は玄関の扉の鍵を閉めて智子を部屋に戻した。母親に事情を話す。
「俺はそういうのわかるんだよ」
「ねえ?どういうことなの?」
「音を立てちゃダメだ。まだいるから。最近の宗教の勧誘は怖いぞ。大人数で来る」
孝之は慣れた様子で身をかがめている。他の三人にもかがむよう指示を出す。
「お兄ちゃんいつまでかくれんぼ?」
「もう少し。それにしても気になるのがあの宗教の営業マンだ。君を見て「あっ」って言ってたよね?知り合いかい?」
智子は首を振った。
「だよね。新手だなー。危うく声をかけるところだった」
その孝之の言葉と共に二度目のインターホンが鳴った。
「三回までは許容範囲。母さん四回目で警察に通報して」
「わかった。でも本当に勧誘なの?」
「間違いないね。この前もあったから。しかし、今回は居留守がばれてるからな。しつこく鳴らすぞ。覚悟しとかないと」
「出た方がいいかしら?」
「絶対ダメ!出たら終わり」
しばらく四人はじっと時が過ぎるのを待っていた。