エッセイ7
「アハハ。でも災難だったわね」
「そうなんですよ!タイプの人には逃げられるのにどうでもいい人は寄ってくるんですよ」
「恋愛なんてそんなもんよねぇ」
「でも羨ましいな。マイホームで素敵な旦那様とお子様二人に囲まれて生活してるんですよね?」
「羨ましいなんて。ちっとも。毎日大変よ」
「ママー!壊れちゃったー!」
「あらま。お兄ちゃんになおしてもらいなさい」
村瀬桜子は娘の美弥と息子の孝之を互いに見つめた。
「みー、また壊したのか?」
小学一年生になる美弥を高校一年生の孝之がなだめる。
「お前も小学生なんだからこういうお人形さんの右腕を折るようなことやめろよ」
「だってー」
「だってーも、だっこーもないんだよ。お前はもう大人だ」
「それは言い過ぎじゃ・・・」
「人様の教育方針に他人が口出ししないでもらいたい。小学生はもう大人だ」
孝之は人形の腕を引きちぎって妹に返す。その光景を見ていた大学生の智子は先ほどまでの彼に対する好意がみるみる下がっていく自分に気づいた。
「毎日こんな感じよ。家庭を持つって大変なのよ」
「そ、そうみたいですね・・・」
ルイボスティーを飲みながら智子は腕時計を見つめた。
「あ!もうそろそろ帰んないと」
「そうねぇ。でも大丈夫なの?暗くなってるし、また変な人に追いかけられないかしら?」
「ああ・・・そうですよね。でもずっとここにいるわけには」
「自宅はこの辺なの?」
「ええ、一駅先です」
「孝之、駅まで送ってあげれば?」
「俺で良かったら。一応友達っていうくくりだから」
少し沈黙した。
「ごめんなさいね。少し変な所あって」
「・・・い、いいえ。それじゃ送ってもらおうかな。迷惑じゃなければ」
「面倒だけど、友達だから送って行く」
「あ、はあ・・・」
「気をつけてね」
孝之は智子と共に村瀬家の玄関に向かった。
「あのさ」