エッセイ6
ゴマ油の家の前の街灯が光り出した。あたりは暗くなりつつある。
「おい!あんた」
洋一はハンサム男を見つめた。ハンサム男は不思議そうな顔をして洋一と目を合わす。
「こいつの腕を見てみろ!」
和馬の袖をめくるとそこには手の後がくっきりと赤く色づいている。
ハンサム男はもちろん眼鏡着物男もスーツ姿の男も女子高生も和馬の腕に注目した。
「・・・いいって」
和馬は少し恥ずかしそうに袖を戻した。こんなことぐらいで大事にしなくはなかった。
「そういうことだからまずは謝罪してもらいたい」
洋一は慣れた口調でハンサム男を睨みつけた。
「待ってくれ。確かに腕を握ったかもしれないが、それで傷害になるとは思えない。みなさんもそう思うでしょ?」
ハンサム男も慣れたように観衆を煽る。
「これは微妙なとこだな。確かに痕はついている。しかし、故意的にやったわけでもなし被害者次第だと思うが」
スーツ姿の男は首を傾げた。
「俺は別にいいって・・・こいつが勝手に大事にしただけだから」
「何言ってる!それじゃ泣き寝入りじゃないか!お金欲しくないのか」
「お金?」
「こいつから慰謝料請求するんだよ」
和馬は考えていなかったことを洋一に言われ困惑した。この男は何を言っているんだと、理解に苦しんだ。
その話を聞いていたハンサム男は不適な笑みを浮かべて近づいてきた。
「なるほど。やっぱり君たちは恐喝が目的だったようだね」
「何言ってる!」
洋一はハンサム男と対峙した。
「あんたに罪の意識があるなら慰謝料を払うべきだ!」
「罪の意識なんてないし、恐喝犯に払うお金なんてないね」
「誰が恐喝犯だ!」
洋一は感情的になりハンサム男の胸ぐらにつかみかかった。
「おい!ちょっと君、落ち着きなさい」
スーツ姿の男と眼鏡着物男が止めに入る。女子高生は心配そうにその場を見つめている。ハンサム男はしわになったシャツの襟を整えて息を整えた。
「いいかい?もし仮に僕が慰謝料を払ったとして、君は僕に慰謝料とクリーニング代を払えるのかい?」
「何言ってる」
「クビに痛みが走ってる。これはむち打ちかな」
「勝手なこと言いやがって!」
「まあまあ、何もそこまでむきにならなくても」
スーツ姿の男はこの状況を少し不思議に思っていた。
腕を捕まれて確かに痕が残るほどだから相当痛かったのは理解できる。しかし、当の被害者本人は訴えるわけでもなくこの場を終わらせようとしている。
それなのに友人はそれをむしかえし、挙句に果てには加害者に暴行をしかけかねない状況を作り出している。この友人はなにをそこまで腹を立てているのかスーツ姿の男には理解できなかった。
「とりあえず落ち着こう」
スーツ姿の男は二人をなだめた後、ゴマ油の家を見つめた。
「ここで話し合おう」