エッセイ5
「こりゃひどい。あいつに文句言わなきゃな」
「いいよ別に」
「よくないよ。立派な傷害だ」
洋一はめんどくさそうに眉間にしわをよせる和馬の腕をとった。先ほどの場所に引き返すように歩き始める。
「お前の方が力強いよ。新しいあざつきそう・・・」
遠めでも一件の家を見つめている不自然な集団が見える。ギャルの女子高生だけがこの異様な光景に気づいているのか、その場から離れようとしているがスーツ姿の父親は微動だにしない。
「パパなんなの、この家。もう帰ろうよ」
「いや、この家にストーカーにあっている女の子がいるはずだ」
「なんでわかるの?」
「実は彼女がこの家に入っていくのを見たんだ」
スーツ姿の男はその家の玄関に足を進めた。後を追うようにハンサム男、眼鏡着物男と続いていく。
「ちょっとみんな・・・」
「ここはきっと彼女の家だ」
ハンサム男がつぶやく。
「は?なぜわかる?」
「ごま油を買っている人をみてね」
「彼女は買い物袋なんて持っていなかったぞ」
「何を言っている。可愛いお子さんと一緒に買い物に行っていたさ」
「子供?どうみたって大学生くらいの女の子だ。子供なんていなかった。誰と間違えてる」
「君こそ誰と間違えているんだ?」
「あのちょっといいですか・・・」
「黙れ!眼鏡」
眼鏡着物男はスーツ姿の男とハンサム男に一喝された。
「申し訳ない。少し言い方がきつかったね。謝るよ。すまなかった」
「いえ、別にわたしは・・・」
「君も謝ったらどうだ?眼鏡の彼は恐喝の被害者になりかけた。憐れむべきだ」
「こいつのどこがだ。娘をストーカーしてた男だぞ」
「だからそれは誤解ですって・・・」
スーツ姿の男は話の辻褄を合せるのに戸惑っていた。
「あ、ああ。そうだった。彼は確かに何も悪くない。しかし、ストーカーにあっていた女の子は確かにこの家に入っていった」
「ストーカーにあっていた女の子?ああ、もしかしてニット帽に追いかけられていた子か」
「そうだ。君も見たのか?」
「ああ。彼女の卵を踏みつぶした奴だからね。忘れるわけない。そうか。彼女はこの家に隠れているのか。もしかしたらニット帽も一緒に」
「それはない」
食い気味にスーツ姿の男は首を振った。
「私が見たのは彼女だけだ」
ハンサム男は頭に手を当てて考え込むように家を見つめた。
「彼女の家にその女の子が逃げ込んだ・・・と、いうことは」
「さっきから彼女彼女って誰のこと言っているんだ」
「あっ・・・それは内緒だ。プライベートなことだからね」
「別に興味はないが」
スーツ姿の男は不愛想に振り返ると、和馬と洋一が不機嫌そうな顔でこちらに向かってくるのが見えた。
「あれ?さっきの子たちだ。どうしたんだろう」