婚約破棄のその後
皆様へ
今日は私事にお集まりくださり、ありがとうございます。
他でもない、私の婚約者・ロゼラッサの事です。
彼女は私という婚約者がある身でありながら、他の男と情を交わしていました!
だから!彼女との婚約を破棄致します!
高々となされた宣言に騒めく、その地域の貴族や有力者達。
ロゼラッサ嬢は覚悟していたのか?
青ざめてはいるものの、気丈に立っていた。
婚約破棄に伴う諸々が長々と従者により、唱和され、解散となった。
「本当にありがとう、ユーリ」
ロゼラッサが声を震わせながら、いまは元婚約者になったユーリに告げた。
「これで心置き無く、妹の元に行けるわ」
実は―
ロゼラッサには母親違いの妹がいた。世間には秘匿されている存在だ。
その妹が血液の病に倒れた。
治療法として必要な血液の持ち主がロゼラッサだった。
しかし、彼女は結婚を控えた身。
治療に協力など、猛反対にあうに決まっている。
「本当に、本当にありがとう、ユーリ。この恩は一生忘れないわ」
ユーリは柔らかな笑みを浮かべ、
そっとロゼラッサの手を取った。
「いや、君を悪者にする形になって、かえって済まなかった。他に僕に手助け出来る事はあるかい?」
その言葉にロゼラッサの頬をつぅっと涙が滑った。
「ありがとう。あなただって無傷ではないのに、助けてくれて。これ以上は何も望まないわ」
表向きは婚約破棄した、けれど恋人同士はいつまでも、月を見ていた。
数ヶ月後。
ユーリの元に書簡が届いた。
ロゼラッサからだった。
「妹・ウェンテの治療は順調です。お医者様の話では寛解の日も近いそうです。そのまま時間が過ぎれば、完治になります」
更に時が流れた。
ロゼラッサからの手紙は相変わらず届いていた。
両親が嫁を…とうるさい。
ユーリはため息をついた。
自分が愛しているのは…。
彼は決意した。
ユーリが姿を消したのは、その数日後だった。
そして。
「ありがとう、ロゼラッサ」
産まれた赤子を抱え、ユーリはロゼラッサの額に口付けた。
あれから数年の後。
ユーリとロゼラッサはひっそりと結婚式を挙げた。
列席者はロゼラッサの母親といまはすっかり元気になった妹・ウェンテだけだった。
母と妹は滂沱の涙を流し、「ありがとう」を繰り返した。
ユーリとロゼラッサの間に産まれた女の子は健やかに育っている。
穏やかに時が流れる田舎は、しかし、若い二人に安堵と安寧をもたらしていた。
これからも彼らの日々に幸福があらん事を。