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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
1章 おれさまは、猫である
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みんなで思念話《トーク》(1)

帰ってきました…!

「――ユア?」


 教会堂裏の扉を開けるなり、女と鉢合わせた。


「た、ただいま、サラちゃん……」


 それ以上の言葉を待たず、女は奴隷の肩を掴んで中へと押し込み、扉を閉めた。

 続けて、玄関先でぽかんと尻餅をついている奴隷の身体を念入りにチェックする。


「あのぉ……サラちゃん?」

「…………とりあえず、無事のようね…………」

「あ、うん…………ひょっとして、心配してくれた?」


「心配?」

 サラという女は、奴隷の額をぐりぐり突き回す。

「グリムが出たとか、それであんたが殺されたとか、大変だったのよ? なのに――平気な顔して、何がただいまよ!」


「だ、だって、帰ってきたんだし……他にどう言えば……」


「とにかく説明なさい。何がどうなっているのか――」

 女は奴隷の両肩を掴んで、さりげなく耳元に顔を寄せた。

「――それと、両手のことも――」


「……サラちゃん……?」


 屋内に居ながらフードを被り、ヴェールのごとく伸ばした黒い前髪で、サラという女は顔を隠していた。

 隠さなければならないのは顔の左半分、特に左目の周り。

 黒く穢れた皮膚はもちろん、黒ずんだ眼球など、人前で見せびらかすものではないと考えている。

 穢れた左目はおそらく女に光を与えないていない代わりに、別のものを見せている可能性がある。

 同じカナリアであり、両手に深い穢れを宿しているユアも、穢れを認識して察知する能力は持ち合わせているが……このサラという女の場合はより正確に見えているのだろう。


「……悪かったわね、怒鳴りつけたりして。手、貸そうか?」


「平気です……」

 両手の感覚を失って以来、ユアは足腰だけで立ち上がる習慣が染み付いているらしい。

「慣れて……いますから……」


 腕の力を頼らないユアの姿にサラという女はようやく安堵したのか、軽く微笑んで見せる。

 そしておもむろに奴隷の肩に手を回し、歩き出した。


「まずは報告ね。ライラも心配していたわ」

「あの、サラちゃん……引っぱらなくても歩けますから……」

「そうね。あんたは疲れている。まずは一休みしましょう。話はそれからでも遅くないわ」

「笑顔が怖いです。目が笑っていません」

「失礼ね。あたしの目はこういうものなの…………そっちこそ、尻尾なんて生やして、どういうことかしら…………?」

「うぇっ? あ、これは、その――」


「――最初に気付いたのがあたしだったから良かったものの……」

 奥の部屋へとおれたちを押し込んで、サラは振り返る。

「……警備の連中に見られたら、一体どうするつもりだったのよ――!」


『その時はその時だ。もっとも、起きもしなかった問題など、心配するだけ無駄だろう』

『……ネロ様?』

「なに、今の声……?」


 教会堂宿舎はカナリアの住処。

 奴隷の身体に隠れたところで、サラのような鋭いやつならおれの存在に気付くだろう。

 だから宿舎内に踏み込んだ時点で、おれは奴隷と分離した。

 カナリアどもの世話となるためにやって来たのだから、話は早いほうがいい。


『――つまり、あなたが噂のグリムということですね、白猫さん』


 そして、部屋の中に居たもうひとりが、おれの声に驚くどころか、正確に声を返してきた。

 ライラという名の、口の利けないカナリア。

 女は音としての声を失った代わりに、穢れに含まれる音の無い『声』を聞き取り、口にしたのだった。


穢れは侵食が進むと、身体機能そのものを奪う。

腕、瞳、喉……奪われた宿主は、自分のものとして使えなくなる。

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