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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
1章 おれさまは、猫である
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尻尾が落ち着かないです…(2)

固結びみたいにつながれてました…

 おれは白猫に宿る穢れそのもの。

 宿主の全てを食いつくしてなお、生きている存在。意思を持つ穢れ。

 人間どもはこれを、恐れと敵意を込めて『グリム』と呼んでいる。

 グリムは穢れの完成形のようなもの。

 カナリアや、他の穢れた生き物と違い、穢れを自在に扱うことが出来る。

 とはいえ、おれの元の宿主はどこにでも居るような白猫だ。

 多少は自分を大きく見せたり出来ても、純粋なパワーは大型のグリムには劣る。何事も得手不得手がある。

 グリムであり、猫であるおれは正面衝突を好まない。

 人間どもと敵対する必要も感じない。

 だが向こうから、おれの縄張りに踏み込んで来たのだ。

 今度はおれが踏み込む番。そのために、おれはやつらが捨てたカナリアを自分の奴隷にした。

 おれはパワーよりも、穢れをコントロールすることに長けている。

 三つあった尻尾のひとつを奴隷に与えることで、奴隷の肉体を蝕む穢れを支配下に置いた。両手が使えなければ、おれの世話もできないし、死なせては本末転倒だ。

 当面の目標は、この奴隷の本拠地をおれの縄張りにすることである。

 修道院とやらが穢れた連中の巣窟というのなら、おれにとっては好都合。

 少なくとも、エサと寝床に困ることはない。 

 今は、そのための第一歩……。


『……というわけで、連中におれの正体やきさまの状態を悟られたり、詮索されるのは好ましくない。争いやトラブルなど、面倒なだけ。分かるな?』

「何となく…………ですが尻尾は隠すとしても、ネロ様はどうするですか?」

『問題ない』


 おれは奴隷の尻尾を引き寄せ、身体をつなぎ合わせる。


『他にも身を隠す手段はあるが、調整中のきさまを放置するわけにもいかんからな。少しだけ身体を借りるぞ』


「尻尾が、白く……って、ネロ様? どこですか?」

『愚か者め。目の前に居るだろう』

「私の尻尾……って、えええええっ!」

『大きな声を出すな。静かにしろ』

「ど、どういうこと? 私の尻尾がネロ様を食べた? 食べられちゃったんですか?」

『――落ち着け。あと、黙れ――』


 伸ばした尻尾で簀巻きにして、静かになるまで口を塞いだ。


「…………げほ……息が、止まるかと、思いました…………」

『そのつもりで締めつけてやったからな』

「ひどいです…………あれ、ネロ様元に戻ってる」

『また騒がれても面倒だ。きさまの尻尾をよく見ろ』

「色が白くなって……ネロ様の尻尾と繋がっています。というか、ネロ様の尻尾が一本だけです。足も二本だけ……後ろ足が尻尾と同化していませんか?」


『そう、同化だ』

 おれは残る半身の形も変えた。

『これで分かったな?』


「ネロ様、私の尻尾になった……ということは、これがネロ様ですか?」

『ようやく正解だな。約束通り自由にしてやる』


 拘束を解くついでに、尻尾の形や長さも調整する。


「あの、ネロ様…………服の中が落ち着かないです…………」

『おれが隠れているのだから当然だ。がまんしろ』

「だからって、背中に入り込まないで――だめ、くすぐったい――」


 涙を浮かべて奴隷が身をよじる。触覚の一部を奪えば大人しくなるかもしれないが、それはそれで立ち上がれなくなる恐れがある。

 仕方ないので、腰に巻きつくことにした。


「…………先ほどよりくすぐったくないけど…………やっぱり恥ずかしいです…………」

『善処してやったんだ。きさまも奴隷らしく妥協しろ』

「でも、ネロ様は息苦しくないのですか? これだと顔も出せませんけれど?」

『尻尾が呼吸をするわけなかろう』


 あまりに間の抜けた心配事に、おれは心の底から嗤った。


「それは、そうですけど……ネロ様だって、生きているわけですから……」

『フッ……安心しろ。このままでも呼吸に問題は無いし、周りも見えている。少なくとも、きさまと同じくらいにはな』

「見えている? どうやって?」

『まぁ、後で教えてやる。きさまには口で説明するよりも、実演のほうが手っ取り早そうだ。とにかく、きさまはおれの指示通りに動けばいい。できるな?』

「が、頑張ります……」

『さっそく減点。声に出さずに、心の中だけで返答せよ』

「えっと…………」

『難しく考えなくていい。できるだけ小さな声を出すイメージで、おれにだけ聞こえるよう、そっとささやいてみろ』

『……こ、こう……ですか……?』

『そう。今のが思念話トークだ。おれたちだけの、秘密の通信とでも考えておけ』

『なるほど。ちょっとカッコイイです』

『おれは今、きさまの尻尾と同化している。返答は全て思念話トークだけに絞れ。聞きたいこと、言いたいことは全ておれにささやくといい。忘れるな、そっと、ささやくイメージだ』

『ささやく…………こんな感じでしょうか?』

『結構だ。どんなに小さな声でも、おれにだけは聞こえるし聞き逃すことも無い。きさまは安心しておれに従え』

『…………ところで、ネロ様』

『どうした? まだ何かあるのか?』

『お腹が膨らんでいるので…………できれば、もうちょっとだけ小さくなれませんか…………?』


尻尾は伸縮自在。ウサギみたいに小さくもできる。

だが、断る。

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