余計なお節介
「いい加減、パーシヴァルさまにまとわりつくのはお止めになったら?」
「そうよ。遊ばれてるだけなのに、身の程知らずにもほどがあるわ」
化粧室を過ぎた先、廊下を曲がった人目のつかない所にケイトリンはいた―――複数の令嬢たちに囲まれて。
「そうだわ。ねぇ、あなたに教えてあげる。私のお兄さまが偶然、店に居合わせたのだけど、パーシヴァルさまは指輪をお買いになったそうよ。もう半年も前に」
「・・・え? 指輪・・・?」
「そう。店の者には大切な人に贈るものだと仰ってたのですって。でも、どうやら相手はあなたではなかったみたいね。ふふ、ご愁傷さま」
「あらどうしたのかしら、顔色が悪いわよ? 体調がよくないのなら休憩室にお行きになったら?」
勢いづく令嬢たちに向かってダニエルは足を早め、声を上げた。
「ケイトリン嬢、ここにいたのか。パーシーが心配して探し回ってるぞ」
「「「っ!」」」
途端、ダニエルに挨拶する事もなく、バタバタと慌てた様子で令嬢たちは逃げて行った。
ダニエルはそのまま、ケイトリンに近づく。彼の気配には気づいているだろうに、ケイトリンは顔を上げなかった。
泣いているのか、泣きそうなのか、恐らくはそのどちらかで。
―――おいパーシー、この野郎。この状況を、俺にどうしろって言うんだ。
ダニエルは、心の中で毒づいた。
「パーシー・・・見つかったのですか?」
「あ、いや、実はまだ」
「・・・パーシーは、半年前に指輪を買ったそうです」
「あ? ええと、そうなんだ?」
ダニエルは内心では慌てふためきつつも、無難な相槌を打ってみた。
「私は・・・頂いておりません」
―――パーシーィィィィィッ‼︎
「このところ何か言いたげだったのは、もしかして別れを切り出したかったのかも・・・」
「・・・うん? 何か言いたげ? パーシーが?」
「はい。どこかそわそわして、もじもじして、口を開いてもパクパクするだけで」
―――いや、それはどちらかと言うと・・・
「・・・私、今夜はこれで失礼します。もしパーシー・・・パーシヴァルさまに会ったら、そう伝えていただけますか?」
「え? いやちょっと待って。取り敢えずパーシーと話してみたら?」
「すみません、それはちょっと・・・こうなる可能性も覚悟していた筈なのに、今は彼に会ってちゃんとできる自信がないので」
―――おいおい、なんか、どんどん拗れてる気がするんだが⁈
これまでずっと俯いていたケイトリンがやっと顔を上げると、予想通り目に涙が浮かんでいた。
自分の想い人と同じ色であるエメラルドの両眸、そこに浮かぶ涙に、ダニエルは思わず言ってしまった。
「・・・っ、君の瞳の色らしいぞ」
「・・・え?」
「実は、俺もその話を聞いた。俺の想い人に贈り物を考えていて宝石店に行った。彼女は君と目の色が同じで、店員は最高級品のエメラルドは売れてしまってないと」
「私の、瞳の色・・・」
驚いて涙が引っ込んだ様子に、ダニエルが密かに安堵していると、でも、とケイトリンが続けた。
「私の為に用意してくれたと、自惚れていいのでしょうか。先ほどの令嬢たちの意見は、ある意味間違ってはいないのです。パーシーはもっといい条件のご令嬢を選べる人ですから」
「・・・じゃ、じゃあ確かめてみよう! パーシーが誰に渡すつもりで、その指輪を買ったのか。君だって、今の宙ぶらりんな状態はイヤだろう?」
―――十中八九、いやほぼ間違いなく、指輪はケイトリン嬢の為だと思っているが。
まだ渡してないと言うのなら、きっと今も後生大事に指輪を隠し持ってる筈。
あのヘタレが、とダニエルは心の中で毒づきながら、余計なお節介を焼く事に決めたのだった。