エピローグ
「いいか、パーシー。もう変な事で拗れたりするなよ。あの夜会の時、本気で心配したんだぞ。挙句、お前は変な勘違いをするし・・・」
「うっ、だ、だって、僕のケイトリンが、ダニエルと踊ってる時に、それはもう蕩けそうな可愛い笑顔を浮かべるものだから・・・」
後になって、それはパーシヴァルの事を話していたからだとダニエルから聞かされ、恋人を思い浮かべた顔に嫉妬したのだと我ながら情けなくなった。
「じゃあ元気でな」
報告が終わり、馬車に乗り込むダニエルを、パーシヴァルとケイトリンが見送る。
自分の恋人が、自分の友人と、蕩けそうな笑顔でダンスを踊っているのを見て、パーシヴァルはとんでもない勘違いをしてしまった。
危うく、プロポーズを諦めるところだった。
臆病でヘタレな自分を、本当に情けないと思った。
でも、デレイアたちの話を聞いて、パーシヴァルは一つ気づいた事がある。
慎重なのは美徳でもあると、親も友人も恋人も言ってくれるけれど、それだけでは大切な人を守れない。
パーシヴァルが世界でいちばん大切にしたい人を守る為には、闘わないといけない時もあるのだ。
「僕・・・強くなるよ。これからは、ちゃんとケイトを守れるように」
小さくなっていく馬車を見つめながら、隣に立つケイトリンに向かってパーシヴァルは言った。
ケイトリンは嬉しそうに頬を染め、ふふ、と笑う。
「嬉しいけれど、私だけでなく家も、領民の事も守ってね。それができる人だと思ったから、パーシーの事を素敵な人だなって思ったの」
「っ! うん、頑張るよ! 必ず君も、家も、領民もちゃんと守れるような男になる」
「私も頑張るわ。パーシーを支えるしっかりした奥さんになるわね」
「おく・・・っ、う、うん。楽しみに・・・シテル・・・」
―――そんな約束を交わしたけれど。
実際、穏やかでのんびりおっとりなパーシヴァルが、強さや厳しさを持てるようになるには、もう少しだけ時間がかかった。
でも、パーシヴァルが42歳。
2人の間に生まれた息子2人と娘1人が社交デビューを果たす頃には、ちゃんと強くて優しいパーシヴァルに変われていたらしい。
―――妻からの報告によると、だが。
【完】