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では続きを



 花束はやっぱり必要だよね、とか。


 跪いた方が喜んでもらえるかな、とか。


 夕焼けが美しい時間帯の方がいいかも、とか。


 半年もの間、指輪を持ち歩くだけのパーシヴァル(ヘタレ)とて、頭の中では色々とプロポーズの構想を練っていたのだ。そう、頭の中では。



 そんな構想を全て吹き飛ばし、ダニエルによって半ば強引に開かれたプロポーズの機会だが、それでもパーシヴァルは乗ろうとした。



「あの、あのあのあの、ケイトリン。実はその、僕のこの右ポケットの中にはですね・・・」


「ちょっと待って、パーシー」



 けれど呆気なくケイトリンに制止されてしまう。


 まずは話をしましょうと言われ、まだ話していない事があるとも言われ。



 両手を右ポケットの上に置いたまま、パーシヴァルはドキドキしながらケイトリンの次の言葉を待った。







「あのね、パーシー。私ずっと、私なんかじゃパーシーに釣り合わなくて申し訳ないって思ってたの」


「え?」


「今思うと、デレイアさまたちの横やりを結構真面目に受け取ってしまっていたのかもね。貧乏子爵家の私では不相応だって、だから学生時代だけのお付き合いだとしても、文句は言えないって思ってた」



 パーシヴァルは、目をぱちぱちと瞬かせた。色々とよく分からない言葉があちこちに散りばめられていたからだ。




 デレイアさまって誰?


 釣り合わないって、不相応って何?


 学生時代だけのお付き合いってどういうこと?




 でも、頭に浮かんだそれらの疑問を口にする前に、「でもね」とケイトリンが続けた。



「私はパーシーが好き。パーシーが告白してくれる前から、あなたの事が好きだった。皆に親切で、でも決して馴れ馴れしくはなくて、いつも穏やかで優しいパーシーが、とってもとっても好きなの」


「・・・え?」



 今度こそ、パーシヴァルは呆けた。



「好きだったって、うそ、まさかそんな」


「うそじゃないわ。入学して3か月くらいの頃かしら。学園の門の近くで、困ってたお婆さんを助けてあげたでしょう? 優しくて思いやりがあって、素敵だなぁって、あの時から思っていたの」


「・・・入学して3か月・・・本当に?」


「本当よ。だから、ずっと好きだったあなたから告白されて、すごく嬉しかったの。でも、素直にそう言えなかった」


「・・・」





 ケイトが僕を好き? 前から?



 あれ? でもケイトリンは・・・




 ―――あの子、上手いことやったわね―――


 ―――没落寸前なんでしょう?―――



 ―――伯爵家の嫡男だから―――





 ・・・あれ? 



 確か、教室であの話をしてたのは・・・






「・・・っ」



 パーシヴァルは、ハッと目を見開いた。点と点が繋がった気がしたのだ。



「・・・ケイト」



 パーシヴァルは、手をケイトリンに伸ばし、そっと抱きしめた。



「ありがとう。思ってる事を伝えてくれて、すごくすごく嬉しい。僕も、ずっと勇気が出なくてごめん。不安な思いをさせてたのに、気づかなくてごめんね」


「ううん、私こそ、大事な話をしようとしてたのに遮ってごめんなさい。でも、この話をしてからじゃないとズルい気がして」


「・・・ええと、じゃあ、続きをしてもいい?」


「・・・お願い、します」


「よし。では行きます」



 パーシヴァルは、遂に右のポケットから小箱を取り出した。



「ケイトリン・ハップストゥール令嬢。これが僕の気持ちです」



 色々と悩んで構想を練っていた割に、出て来た言葉は練習したどれとも違って、至ってシンプルなもの。


 あまりに自分らしいオチに、パーシヴァルは苦笑した。



 ぱかり、と蓋を開ける。


 綺麗な指輪が姿を現した。


 会場とバルコニーを隔てる、大きなガラス扉から漏れる光が指輪を照らし、美しいエメラルドの宝石がきらりと輝く。



 ケイトリンの瞳の色だ。


 パーシヴァルが大好きな、明るくて優しい緑色。




「僕と、結婚してください」


「へ? けっこん?」


「あ、違った。婚約してください、だった」


「ふ、ふふっ、もうパーシーったら」



 涙を浮かべながら、くすくすと笑うケイトリン。そんな恋人の様子に、パーシヴァルは恥ずかしそうに頭を掻いた。









「・・・ねぇ、ケイト」



 美しいエメラルドの指輪が無事にケイトリンの左手の薬指に着けられた後。



 甘い空気を醸し出していたパーシヴァルが、真剣な―――どこか冷ややかな眼差しをケイトリンに向けた。



「さっき言ってたデレイアさまって・・・ストレッツァ伯爵家の令嬢のこと?」








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