嗚呼、勘違い
夜会会場でパーシヴァルを待つ事にしたダニエルとケイトリンは、グラスを手に談笑するフリをしつつ、壁際で打ち合わせを始めた。
パーシーに揺さぶりをかけるのはダニエル。彼はパーシヴァルはきっとまだ指輪を肌身離さず持ち歩いている筈だと言った。
「きっと、何か格好のつくシチュエーションとか感動的な言い回しとか考えすぎて、機会を見つけられずにいるんだろう。いっそ、プロポーズせざるを得ない状況に追い込むのも手だと思う」
取り敢えずケイトリンはいつも通りに振る舞う。
変な令嬢たちに絡まれたが、今は一旦それを置いておいて、パーシヴァルの指輪の真相を掴もうという話になった。
そんな風に壁際でこそこそと作戦を立てていた時、まずケイトリンがパーシヴァルの姿を見つけた。
緊張するケイトリンに、ダニエルがそっと囁く。
「表情が固いよ、ケイトリン嬢。ほら笑って、きっと大丈夫だから」
「・・・はい。よろしくお願いします」
ケイトリンは一度大きく息を吐き、気持ちを切り替えた。
そして、戻って来たパーシヴァルに向かって言った。
「もう、パーシーったらどこに行っていたの? 気がついたらいないんだもの、心配したじゃない」
ダニエルから見ても、違和感はない。早速、ダニエルも続いた。
「そうだぞ、こんな素敵な令嬢を放っていなくなるなんて」
ケイトリンは、近くの給仕を呼び止め、飲み物の入ったグラスをもう一つ手に取り、パーシヴァルに差し出した。
「それで、どこに行っていたの? パーシー」
ケイトリンの質問に、ダニエルも大きく頷いた。もしプロポーズするつもりで指輪を持ち歩いているなら、大事な人を残してどこかに行ってしまった理由が謎すぎる。
「・・・新鮮な空気を吸いたくなって、ちょっと庭園に」
ちょっとパーシヴァルらしくて、でも別な意味でパーシヴァルらしくない返答に、思わずダニエルが突っ込んだ。
「おいおい、余裕ぶって恋人を放置するのは感心しないぞ、行くなら2人で行かないと。夜会会場に令嬢をひとり残して、横から掻っ攫われたらどうするんだ。
相変わらずの朴念仁だな。お前には勿体ないくらいの素敵な令嬢なんだから大切にしろよ。まあ、今回は俺がついてたから良いけどさ」
ダニエルとしては、先ほどの令嬢たちの件が頭にあった。ちゃんとしろよという気持ちが、少し口調に出てしまったかもしれない。
そしてそれはケイトリンも同じだったようで、続いた言葉はつい棘のある言い方になった。
「パーシーにダニエルさまのようなお友達がいてよかったわ。お陰で今夜、楽しく過ごせていますもの」
その後、会話をしながら様子を観察しているうちに、ダニエルはパーシヴァルがズボンの右ポケットによく手をやっている事に気づいた。
よくよく見れば、ポケットに小さな膨らみも確認できる。
―――やっぱり持ってたじゃないか。
ならば、とダニエルは考えた。後は、少し後押ししてやれば綺麗に丸く収まるだろう。
―――よし、これで問題解決だ。
と、気を抜いた時。
「僕、ちょっとバルコニーで外の空気を吸って来る」
―――は?
「ケイトはダニエルと一緒にいたいでしょ? 僕のことは気にしなくていいから」
―――おい、ちょっと待て。何がどうした。
もの凄い勢いで正反対の方向のバルコニーに向かって行ったパーシヴァルを、2人で慌てて追いかけた。
そうしたら、何故かパーシヴァルは、バルコニーでこんな言葉を呟いていたのだ。
「あ~あ、フラれちゃった。結局、渡せず仕舞いだったなぁ」