愛妻料理
情景描写とかでなぐるスタイルも好きだけどこういう淡々とした語り口のホラーもまた違った良さがあって好きです。
……おはようございます。
えぇ、問題ありません。気にしないでください。先日は取り乱してしまい申し訳ありませんでした。今日はちゃんとお話しできると思います。
心配しないでください。
……えぇ、はじめてあそこに行ったのは半年ほど前の事でした。その日はなんとなく気分がよくていつもと違う道で帰ってみよう、なんて考えて少し遠回りをしたんです。その日の事はよく覚えています。春の、日が落ちてもまだ少し暖かい日でした。非日常、というと大袈裟ですがいつもと少し違う景色に年甲斐もなくわくわくして足取り軽く家に向かいました。今思えばそれが間違いだったのです。
十分ほど歩いたところだったでしょうか。昔ながらの食堂、といえば伝わるでしょうか、とにかくそんな感じの古びた飲食店を見つけたんです。その日は妻が用事があって夜遅くまで帰ってこないから悪いけど夕飯は自分で何か適当に食べておいて欲しい、と言っていたのを思い出してせっかくだしここで食べていっちゃおうかな、と思いその店に入りました。
店内も外観通りのどこか懐かしい感じのするところでした。私の他に客はおらず、店主が一人厨房に立っているだけでした。彼は表情ひとつ変えずぶっきらぼうに適当な席に座るよう促すので言われるがまま、目についた席に腰をおろしました。早速何か注文しようと思い机の端にあった古びたメニューを広げるとそこには「何でもお出し致します」と黒々とした文字で書かれているのみで他に文字は見当たりませんでした。
冗談だろう、と思いつつもそのまま何も注文しないわけにもいかずとりあえず何品か注文して、しばらくぼーっと店内を見回していました。十数分後──一般的な飲食店よりもかなり早かったと思います──でてきた料理はどれもとても美味しくてそれをきっかけに私はあの店に通うようになったのです。
事あるごとにあの店に行きましたが店主は相変わらず無愛想で入店しても挨拶ひとつしませんでしたし、料理を注文しても表情ひとつ変えずあいよ、とぶっきらぼうに答えるのみでした。しかしやはり料理は何を注文しても非常に美味しく、本当に何を注文しても断られる事はありませんでした。
そして貴方がご存知のように一週間前の──どうしてあんなことを言ってしまったのでしょうか。ああ、すみません。ちょうど一週間にあの店に行ったときちょっとしたいたずら心で私は「私の一番好きなもの」とだけ店主に注文しました。これであのいつも無表情な店主も少しは困った顔をするだろう、と思ったのですがやはり店主はいつもと全く変わることなくあいよ、とだけ小さく呟き、数十分後にはハンバーグが私の前で湯気をたてていました。確かにハンバーグは好きでしたが一番ではなかったのでまぁそんな超能力じみた事はできないよな、なんて思いながらそれを口に入れました。その時から違和感はあったのです。不味くはないのですが私の知っているハンバーグの味の何かが違うのです。私は恐る恐る店主に「あの……これって……」と尋ねました。すると店主は今までの顔からは想像もできないようなニヤニヤ笑いを浮かべていたのです。言葉を失う私に店主は「それは確かにあんたの一番好きなものだよ」とだけ言いました。そこで私は何とも言えぬ恐ろしさを感じ一目散に店を出て、家に向かいました。ドアを開けてすぐにむせ返るような血の匂いに気がつき、そこからは貴方もご存知の通りです。
──ええ、必ずや彼──私の妻を殺害し、その肉を私に食わせた彼を──見つけだしてください。そうしないことにはわたしは……死んでも死にきれないのです。
ありきたりすぎかな~、とも思いましたがやっぱりホラーといったらこういうのが好きなので勢いに任せて書いちゃいました。