赤志-5
顔色が悪かった本郷は黙ってソファに座った。
「なに。どうしたんだよ。財布でも落としたのか?」
藍島が肩を揺する。相手は不愉快そうに顔を背けるだけだった。
藍島は本郷を指差し、一同に目を向ける。
「何コイツ。どうしたの?」
「己を恥じているんだ。人間そういう時があるだろ」
飯島が言うと「あ~」と得心したような声を上げる。
「黒歴史が突然蘇る感じね。わかるわかる。私も中学時代アニメキャラ描いてたノートパクられて燃やされたりしたなぁ。あの同級生たち死んでねぇかな」
「それなんか違くない?」
飯島が顔を引きつらせた。
「アカシーサム」
ジニアが赤志の袖をクイクイと引っ張る。
「ん? どうした?」
「どう?」
ブレザーにチェック柄スカートの学生服に身を包んだジニアが両手を広げる。
「おお、マジで似合ってるな、お前」
「かわいい?」
「可愛いよ」
「めっちゃ?」
「あ? ああ。めっちゃ」
するとジニアはスカートとニーハイソックスの間を指した。
「絶対領域」
ドヤ顔を浮かべていった。
「……なんだそりゃ?」
「絶対領域は絶対領域だ。ロマンと夢が詰まってるんだぞ。聖域なんだぞ」
藍島が言いながら拍手した。その瞳には賞賛が満ちている。赤志には意味が分からなかった。
こんな馬鹿なやり取りをしていても、本郷のどんよりとした雰囲気は晴れなかった。
「も~鬱陶しいなぁ。飯島さん。このデカブツ追い出していい? 空気が淀む」
「藍島さんの言う通りだ~。外に放り出せ~」
「お前ら家主に対して失礼すぎるだろ」
「優しくも何も。意味がわからないから優しくできないですよ。何があったんだよー。話せよー。こんなに人がいんだから」
再び藍島が本郷を揺する。しかし本郷の口は縫い合わせられているかの如く開かなかった。
「……俺から話そう。構わないな。本郷」
飯島が説明をした。黙って聞いていた藍島は徐々にその顔を青くした。
「なにそれ? 辛すぎない? ていうか、え? なに? ジニアちゃんのお母さんが妹なの?」
ジニアは頭を振った。
「お母さんだったら薬が効かないと思う。私たちには効果が薄いから。プレシオン。それにトリプルM? も。獣人だから魔力を増やされても、コントロールできるし……」
「は~。なるほど。それに拘束なんてされても抜け出せるよね。獣人だし」
「……でもお母さん、「シシガミユウキ」に会いに行くって言っていたから……」
ジニアの声が萎んでいった。藍島は視線を斜め上に向けた。
「「シシガミユウキ」に嵌められた、とか?」
「ありえない話じゃない。獣人は人間に対して温厚だしな」
それよりも赤志が気になっていたのは、本郷朝日のワクチン接種の真偽だ。
嘘を吐いていたとしても、その理由がわからない。
「だけどな。ジニアの母親が、本郷朝日と接触しているのは確かなんだ」
赤志が言った。
「一般人がブリューナクを発動することができるわけがない。ましてや装備タイプは、安定させるのが至難なんだよ。一歩間違えれば大規模な暴走事故になる。ただ獣人の協力があれば、行けるかも」
【ってことは、妹も「シシガミユウキ」と関わっているかもな】
他には進藤のような裏社会の連中と関わってしまったか。可能性は色々と考えられる。
そして新たに気になったことができた。ジニアの母親は、今頃どうなっているのかだ。
「コイツ、そのうち立ち直る?」
赤志は本郷を指差しながら飯島に聞いた。
「立ち直るさ。図体がデカいだけじゃないよ、本郷は」
「そうかい。なら安心だ。楠美。そっちはどうよ?」
「呼び捨てにしないでください」
全員が騒ぐ中、楠美は一人離れた場所で黙々とノートパソコンのモニターを凝視していた。
「プレシオンの開発は色んな獣人が協力しているのね。レイラ・ホワイトシールと同じような魔法が使える者を探していた……それと効果が獣人にも発揮するかどうか……人間に対して毒じゃないかも……」
ブツブツと言いながらデータを確認していると、楠美は何かに気づいたように顔を上げた。
「トリプルMのことが書いてある。違法薬物との相違点を洗い出して危険性の無さをアピールしてる」
「だろうな。魔力増幅させるだけなら毒と変わらないし」
「ただ、その……プレシオンとトリプルMの効果って……」
楠美はノートパソコンを閉じた。
「赤志。明日もう一度私と動いてもらうわ」
「はいはい。どこへでもお付き合いしまっせ。どこに行くんだ?」
「科捜研よ」
赤志は首を傾げた。




