赤志-2
「"ブリューナク"は魔装って呼ばれている。その名の通り魔法で作られた鎧だ。そして発動すると特殊な魔法も一緒に発動する。形状と効果は発動者ごとに違う。多少の被りはあるけどな」
赤志はホワイトボードに黒いペンを走らせる。
「本郷と飯島さん。あんたらどれくらい"ブリューナク"を理解している?」
「多少は」
本郷も同じだったため沈黙した。
「じゃあ知ってるかもしれねぇけど一応説明するわ。まずは獣人の名前との関係性からだな。獣人の名前は単語の組み合わせだったり、単語そのものだったり。例えるなら……競走馬の名前かな? 人につけるような名前じゃない」
赤志はホワイトボードに名前を書き込む。
ジニアチェイン。
タキサイキア。
ジャギィフェザー。
スフィアソニード。
レイラ・ホワイトシール。
「なんで獣人の名前はこんな特徴を持っているのか。それは、これが"ブリューナク"の名前だから」
赤志はペンを離す。
「獣人はバビロンヘイムに生まれると、神様から"ブリューナク"を授かる。で、そのまま自分の名前にしている」
「つまり、自分の固有魔法の名前ということか」
「そういうこと。例えば「ジニアチェインはジニアチェインという魔法を使える」って感じ」
「……なるほど」
本郷は納得したように首を縦に振った。
「だからさ、相手の名前から能力が読み取れることは結構あるんだ。直接的な名前も多いし。んでこっからが本題」
赤志は赤いペンを走らせる。
書かれた文字は「顕現」と「装備」だった。
「"ブリューナク"には大きく分けて二種類ある。まず「顕現」。これは体内の紅血魔力を使って発動するタイプだ。量が足りなきゃ白空魔力で補助する。大半はこのタイプ」
トントンと、「装備」の文字を叩く。
「で、「装備」は稀な例。さっきと逆で白空魔力を主に使って、紅血魔力で補強する。こいつには大きな特徴があってな。その名の通り、他人に鎧も能力も譲渡することができるんだよ」
赤志は本郷にペンを向けた。
「あんたのコートは「装備」タイプ。効果は回復、いや、再生能力だな」
「レイラ・ホワイトシールと似たような感じか? 禁呪なんじゃ」
「……そうでもないと思う」
飯島の疑問にジニアが答える。
「本人の紅血魔力に依存する感じだから、影響範囲は狭いし」
「で、本郷の魔力はカス、いやゴミだから深すぎる傷は治せないだろうな」
本郷は額に拳を当てた。
「妹さんの職業は? 獣人と関わることとかある?」
「……雑誌記者だ。政治関係から魔術・獣人・異世界関係に異動した。獣人によく取材していた。それとお前のことを取材しようと息まいていた」
「じゃあ、仕事中にお母さんに会ったのかな」
ジニアが言った。飯島が腕を組む。
「その時に作ってもらった、とかか」
「そこまで仲良くなれるとは考えづらいです。朝日は魔法が使えない。ワクチンだって打ってた」
「打ってたのか。本当に」
本郷はギロリと飯島を睨んだ。理解できない2人は困惑する。
「なんだよ。どういうこと?」
飯島は経緯を説明した。赤志が目を見開く。
「だとしたら朝日さんは……本当は魔法が使えたんじゃないか? で、失うわけにはいかなかったとか? 自分の魔法は何か使い道があると思ったんだ。そりゃそうだ。貴重な装備型ブリューナクで、他人の傷が癒せる。もっと人の役立とうと思って動いてたとか────」
【勇】
本郷の刺すような視線に、流石の赤志も手を挙げる。
「悪い。失言だった」
【まったく。説明段階までは上手く行ってたのに】
「とりあえずさ、朝日さんに関しては調査してみよう」
その時だった。軽いノック音が室内に転がり込んできた。
「失礼します」
入ってきたのは楠美だった。
「お疲れ様です。進藤の容態について共有します」
楠美は赤志の隣に立った。講師が入れ替わるように赤志は近くの椅子に座る。
「命に別状はありませんが、意識不明の状態です。両眼が破裂した原因は魔法です。進藤の目許の魔力が活性化してました」
「時限式か起爆式かはわからないけど内側から爆破されたってことだな」
「そうなると誰がいつ仕掛けて、どう起爆したか」
赤志が鼻で笑った。
「んなの決まってんだろ。あの場にいたんだよ。「シシガミユウキ」が。で、進藤の口を閉ざそうと起爆したんだ」
楠美が目を見開く。
「進藤は失明する前、どっか見ながら叫んでた。見ていたのは、突入してくる警察関係者たちだった」
「ちょっと待ってください。それって」
「そうだよ。だから俺たちは言葉少なにここまで来たんだ」
「楠美。このことを知っているのはここにいる面子と武中だけだ。他言は無用で頼むぞ」
「……なら、私は今からそちらのグループの仲間ということでよろしいでしょうか」
「じゃないと喋らないさ」
本郷の言葉に楠美が笑みを浮かべる。次いで視線をホワイトボードに向ける。
「"ブリューナク"の解説ですか? なぜ今?」
「本郷。あんたから話した方がいいんじゃない?」
「……楠美。落ち着いて聞いてくれ」
本郷は今までのことを簡潔に伝えた。話が進めば進むほど、楠美の表情が険しくなっていった。
「ありえるんですか? そんなことが」
「だから俺は、もう一度朝日の事件を調べる。俺がやるべきことなんだ」
「なら俺は本郷のサポートにまわるかね」
飯島が髪を掻き上げた。
「あの、私も。本郷さんと一緒に調べたいです。朝日さんが、お母さんじゃないとしても」
ジニアの言葉に誰も異を唱えなかった。
残った赤志と楠美の目があう。
「全員で同じ方向に動く必要はないですね。私と動いていただけますか、赤志さん。一緒に来て欲しい場所があるんです」
「どこよ」
「ワクチン研究、並びに開発協力会社である六面共産。ワクチンについて調べてみたいのです」
なぜ、と聞かれる前に楠美は言葉を紡ぐ。
「本当に「プレシオン」が安全なのかどうか。それと、進藤は魔力が一瞬活性化するという副作用を知っていた。開発者の中に進藤の仲間がいるかもしれません」
楠美は目に力を込めた。この言葉は全部、建前だ。
楠美は赤志を疑っていた。敵ではないだろうが、とあることが引っかかり、味方と呼んでもいいのか決めあぐねているからだ。
ここで2人で動くことができればその疑いも解消されるかもしれない。
「……いいぜ。あんたの考えはわかった。乗ってやるよ」
赤志が手を差し出すと、楠美は無言で握り返した。
【都合がいい。相手から誘ってくれるとはな】
赤志は口許に笑みを浮かべた。
彼もまた、楠美を疑っていた。
彼女が「シシガミユウキ」ではないかと。




