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赤志-1

 神奈川県警本部に設立された捜査本部は閑散としていた。グリモワールの残党と、三鷹組の動きを制御するために大人数が駆り出されているからだ


 現状「グリモワール」の活動は停止している。まるで最初からそんな組織は無かったかのように静まり返っている。


 警察は安全が確保されたとして篠田澪の身柄を解放した。同じく藍島景香も。しばらくは自宅付近に警備が付き、安全が確立されたら解除される予定になっている。


「あなた達の働きで大きな被害が出ることを阻止することができました。これまでの非礼は謝罪しましょう」


 柴田は正面に立つ3人を睨みながら言った。


「……全っ然謝る気ねぇじゃん」


 赤志が小声で呟いた。


「進藤から青葉台連続不審死事件について情報を吐かせます。奴が関わっていないわけがない。薬の在処も含めて情報を搾り取ります。まだ獣人がいる可能性もあるため、あなた達には待機してもらいます」

「「シシガミユウキ」については?」

「ついでに聞いておきましょう」

「メインに据えるべきだろうがよ」

「……柴田管理官。話というのはそれだけでしょうか。であれば我々は失礼します」

「そうしてください。詳しいことは飯島警部に聞いていただければ」

「……適当だね」


 ジニアが言った。柴田は不快そうに鼻を鳴らすと手元の書類に視線を落とした。


「まったく。篠田澪の護衛につけた狩人はどこに行ったのやら」


 目間を摘まみブツブツと文句を言い始めた。3人は柴田を放置しその場を後にする。

 小会議室に向かうと飯島と合流した。


「お疲れ様です。源さん」

「おう、お疲れ……本郷? どうした? 考え事か」


 長年の付き合いがあるため飯島は本郷の雰囲気が違うことを察知した。疑問符を浮かべながら赤志に顔を向ける。


「昨日のジニアの言葉が引っかかってんだよ」

「なんだそれは」


 赤志が事情を説明すると、飯島の表情が徐々に険しくなり、最後は当惑を隠せなくなった。


「ジニアちゃんの母親が、本郷の妹?」

「他人の空似じゃねぇの? って思ったんだけど」

「似てるとかじゃない。本当に、あれはお母さん」


 ジニアの目は真剣だった。飯島は頬を掻く。


「ジニアの母親は5月から失踪してます。で、「シシガミユウキ」と関わりを持ってると思われる、らしいです」


 赤志の言葉に飯島が眉をひそめる。


「それは誰から聞いた」

「尾上さんです。ジニアの素性を調べた時に」


 赤志は本郷を見た。


「もう一度聞く。本当に死んだのは妹さんなのか?」

「……どういう意味だ」


 本郷がジロリと睨む。


「あんたの心の傷をほじくるような真似はしたくないが。あんた、亡骸をちゃんと見たのか? 検視結果とか解剖記録とか」

「俺が詳しく見たし本郷も確認している」


 飯島がかわりに答えた。だが赤志は本郷から視線を切らない。

 やがて、本郷は苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「確認は、している。だが」

「データだけしか見てないんじゃないか?」


 本郷は口を開き、すぐに閉じた。急激な吐き気が襲ってきたからだ。


「ひと目……死に顔を見た時点で限界だったよ」


 椅子に座り、絞り出すように言った。


「俺の両親は、幼い頃事故で亡くなってる。それからずっと朝日と暮らしていたんだ。俺にとって唯一の肉親なんだよ」


 本郷は項垂れた。


「だから、朝日の死に様を見続けることはできなかった。死体なんて見慣れているのに」


 飯島が事件の概要を赤志とジニアに説明した。


薬物過剰摂取(オーバードーズ)……」

「惨い遺体だった。あれがもし俺の娘だったらと思うと、やり切れん」

「娘さん、いるんですか?」


 ジニアが聞くと小さな笑みを浮かべた。


「ああ。とてもいい子でな。引っ込み思案だけど」


 赤志はこめかみを掻く。


「本郷。気持ちはわからなくもないけどさ、もう逃げられねぇぜ。「シシガミユウキ」を追うためにも向き合うべきだ」

「私の母親を探すためにも……見つけたい。お母さんを」

「あんたの妹が十中八九、事件を解決する(キー)だ。一番親しいあんたが調べたら真実に近づくかもしれない」

「真実か……」

「今回の事件は魔法も獣人も深く絡んでいる。まごついていたら、第二第三の進藤やジャギィフェザーが出てくるかもしれない。辛いなら代わりに俺が調べてもいいけど、それで満足すんのか? 仇を取りたいから死に物狂いで追ってんだろ」


 赤志の言葉が室内に木霊する。

 本郷は項垂れたまま、大きな手を顔の前で合わせた。


「逃げていた、かもな。朝日の死から。思ってたよ。この事件(死)からは逃げられないって」


 本郷は顔を上げた。


「今が、その時か」

「なら俺も教えてやるよ。あんたも気付いてない秘密ってやつ」


 本郷が首を傾げる。


「あんたの冗談じみた筋肉量は先天性のものだろ。けどその異常な回復速度は違う。正体は魔法だ」

「待て。俺には才能が無い。魔力量だって少ないんだぞ」

「だから、他の人間が、あんたに魔法をかけてんだよ」


 赤志は本郷を指差した。


 正確にはいつも本郷が身に纏っている緑色のコートを。


「それだよ」


 本郷はコートの裾を掴んで持ち上げる。


「……これが?」

「あんたそれ誰かに貰った感じか?」

「妹から、貰った」


 赤志は小さく笑った。


「あんたの妹さんは秘密が多いな。そのコートは"ブリューナク"だ」


 赤志は詳しく説明するといって立ち上がると、室内にあるホワイトボードへ向かった。

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