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第6話 私は戦闘班班長。

作者性癖注意:キス、唾液

「加奈子さん、大丈夫ですか?!」

 おなかに小さな風穴をあけた加奈子さんに立ち寄る。さっきカアナクの脚に刺されたため、麻痺で動けないらしい。傷口は……大丈夫だ、穴は腸辺りを貫通しているから、ちゃんと処置すれば死なないだろう。

「夕お、えん、ごを!」

 ろれつが回らない加奈子さんがそう言った。

 すぐに了解のハンドサインと、遠くの救護班に救護要請のハンドサインを出し、普通のものより短い刀を抜いて夕に合流する。

 夕は遠慮なしに左腕を盾として使い戦っているので、すぐに夕の左に入り、カアナクの攻撃を刀ではじく。

 その瞬間、夕が右手に持った刀を振り下ろした。それはカアナクの体を真っ二つにする。すると断面から大量の光の塵が爆発したかのように跳び出してきた。

 すると夕が私の腰辺りをつかみ抱え、思いっ切り後方に飛んだ。光の中から抜けると、それがすべて空へと昇っていくのがわかる。まるで光の塔であった。

 思ったよりあっけなかったな。加奈子さんが横の針を二本落としていてくれたのと、夕が強かったからか? それにしても違和感が……。

「千夜、ありがとうございます」

 夕は疲れた顔で何とか笑顔を浮かべているように言った。母親を亡くしたのが相当なショックなのだろう。

 まだ抱き着いたままの夕を抱きしめ返し、頭を撫でながら、

「こちらこそ」

 と言った。すると抱きしめる力が強くなったのが分かった。

 そのままの体勢で後方を見てみると、すでに加奈子さんはいなくなっていた。さすが組織の人間は仕事が早いな。彼らの顔を見たことがないくらいには早い。

 夕を抱きしめていると、たまに羽が当たる。立派な白い羽と言ったところか。夕の格好が制服と言うことから、和風の天狗と言うよりは洋風の天使に見える。

 翼全体を観察していると、左右で羽の生え方が違うところが一ヶ所あるのに気づいた。さっきまでの戦闘で抜けたというわけではなく、一本多いのだ。その多い一本に触れようとしたその時、羽が突如、針に変化して左腕を浅く刺してきた。力が入らない、夕に寄りかかるように倒れる。

「千夜、大丈夫ですか?!」

「まだカアナクは死んでない! 夕の羽に紛れてた! 夕、私の左胸ポケットの薬飲まえてくえ。げおくやうだあら」

 ああ、もうろれつが回らなくなってきた。

 夕が薬を取り出している間に水替わりとして口内に唾液をためる。夕が錠剤を一粒、私の口に入れると同時に、

「ごめん」

 と言いながらキスをしてきた上に、唾液を入れてきた。もともと薬を飲もうとしてたところにつばを入れられ、驚いてそのまま飲んでしまう。

「ごめんなさい、水ないから、代わりにと思って……」

 と千夜が本当に申し訳なさそうに、暗い顔をしながら言った。

 別に私は大丈夫だしむしろ嬉しいのだが(唾液は驚いたが)、夕が暗い顔をするのは嫌だ。薬のおかげで一瞬で動くようになった手で、夕を撫でる。

「大丈夫、ありがとう夕」

 と優しく言う。嬉しかったとは言わない。唾液を飲まされたと誤解されてしまっては、今朝の加奈子さんみたいに変態になってしまう。結局あれは誤解だったのだが。

 ようやく動くようになった首で、カアナクがどこに行ったのか周りを見ようと思ったその矢先、

「イイネ、オアツイネ!」

 後ろでカアナクの声がした。

 すぐに振り返ると、脚の針だけになったカアナクが立っている。

「ザンネン、ザンネンだねー。左半身死んじゃった。でもこっちはまだ死んでないよ」

 カアナクは針の根元から体を徐々に再生していた。

「違うよ、勝つのは君たちじゃない。このままだとPada簡単に勝っちゃう。面白くないから秘密教えてあげるー。一、日本語喋れるよー。二、次の新月にここ、怪獣みんなで攻めちゃうよー。それまでは攻撃しないであげる! 三、雨降るよ、槍の雨!」

 カアナクがそう言うと、上空から轟音が迫り落ちてくる。

 見てみると、それが槍だとは思えないほどの密度で降ってくる。すぐに倒壊していない建物のドアを蹴破り入って、建築法により定められた場所、つまりは玄関にあるシェルターに入る。ハッチを閉めると同時に、槍が降り注ぐ音が耳をつんざく。

 電気をつけようとスイッチを押すと、

『電力不足』

 と機械音声が鳴った。

 夕の左腕からこぼれる塵のみが光るこの暗い部屋で、夕と身を寄せ合い時が過ぎるのを待つ。さっきカアナクが言っていたことを話し合おうともしたが、地上があまりにうるさく、自分の声も聞こえないほどだったのであきらめた。

 十分ほどたつと、耳鳴り以外に何も聞こえなくなった。

「終わった……?」

 聞き取りずらいが夕の声が聞こえるということは、鼓膜はまだ大丈夫なようだ。

「ハッチ開けてみよっか。開くかな?」

「いざとなれば神通力で吹き飛ばせます。数時間動けなくなるとは思いますが……」

「わかった。いざとなれば力を借りるよ」

 まずはハッチを普通に開けようとする。しかし当然ながら、上に乗っているだろう瓦礫のせいでハッチは開かない。

 次は梯子に逆さに上り、ハッチを力の限りに蹴り上げる。すると一瞬ハッチが浮いたがすぐに戻ってしまった。

「あの、私がやりましょうか?」

 と夕が言ってきた。

「いや、神通力はもうちょっと待って」

「神通力じゃなくて、妖力でやってみてもいいですか? 妖力っていうのは妖怪にとっての筋力みたいなものなんですが。もちろんその後も動けます」

「動けるのか。じゃあお願いできる?」

 と聞くと、夕は静かに頷いた。

 夕が梯子を逆さに上る。翼は器用に体に接着させて、それでスカートを抑えていた。夕がある程度の高さで力をためる動作をし始めると、夕の脚の周りに紫色の霧のようなものが発生した。

「えい!」

 と夕がかわいく言うと、その声とは裏腹にハッチからすごい音が鳴った。

「千夜、開きました!」

 と夕がすぐに下りてきて、こちらを見て笑顔で言った。

 ハッチはちゃんと開いていた。梯子を上り、地上の周りに散乱している瓦礫の上にあがる。すると、ハッチを中心に、丘のようにが瓦礫や槍が少しだけ多いのが分かった。なぜだ? あたりをもう主腰注意深く見てみると、ハッチと思われるものが落ちていた。そういえばシェルター入り口のハッチがなかったな。夕が周りの瓦礫も含めて全部吹き飛ばしたのだろうか。そういえば、妖力は筋力みたいなものと言ってたな。つまり夕はマッチョ……やめよう。

 さて何をしようか。カアナクの言っていること、次の新月まで攻撃を行わないのが本当ならば、ここはカアナクの捜索、追跡よりも被害範囲の確認と救護活動を優先したい。みたところ、地平線の先まで建物がないことから二から四列は被害を受けてるだろう。

「千夜、どうしますか?」

「とりあえず地下に置いてきた千朝と美咲さんが心配だから、そっち行こう」


 十分ほど走って(夕は飛んで)、学校があったと思われる瓦礫群に着いた。

 道中には、おそらく人間であっただろう赤いものはあったが、そう多くはなかった。みんな避難できたのか、もしくはがれきに埋もれていて見えないだけか……。

 学校も同じ様子だった。

「これは……ひどいね。まず千朝と美咲さんを探そう。生徒の救護は人手があった方が早いだろうし」

「わかりました」

 と瓦礫に埋もれてわからなくなった地下の入口を探そうとしたとき、

「「きゃあああ!」」

 悲鳴が聞こえた。その方向を見ると、千朝と美咲さんが落下していた。

 槍を踏み台にし足に力を入れて思いっ切り跳ぶ。

 空中で千朝と美咲さんをキャッチするが、着地場所にはいつも通り槍がある。三人分の体重で着地いけるか? と思ったのもつかの間、飛んできた夕が刀で槍を一掃してくれた。夕が作ってくれた地面に着地する。

「大丈夫?! 千朝、美咲さん!」

「ふー、死ぬかと思った。ありがと千夜ちゃん、怪我無いよ。千朝ちゃんは……あらら、気失っちゃってるね」

 と美咲さんが言った。

 千朝を見ると、確かに気絶、というか寝ていた。

「ありがとう、夕!」

「どういたしまして」

 と夕が降りてきて会釈しながら言った。

 その後すぐに、美咲さんが質問してきた。

「千夜ちゃん夕ちゃん、地上で何があったか教えてくれるかな。地下ではカアナク倒したのと、カアナクが日本語をしゃべれる、そして変身できるのも見た」

 日本語をしゃべれるのはカアナク本人から聞いた情報と一致している。変身できるということは、夕の羽が針に変わったのは、あれはカアナクが変身していたのか。

 美咲さんに、さっきまで何があったかをすべて話した。

「なるほど……わかった。私は町の地下シェルターを片っ端から開けてくるから、千夜ちゃんと夕ちゃん、起きたら千朝ちゃんも一緒に学校みたいな巨大施設での救助活動をお願い。ほか地区への連絡は私がついでにやっておくから。次の新月のことについては後で考えよう」

 と跳んで行った。

 私は南側に、夕は北側に向かって、シェルターを見つけるため学校だった瓦礫をどかし始めた。


 三十分ほどで学校での救護活動が終わった。途中から起きた千朝も参加してくれて、思ったよりも早く終わった。

 瓦礫を除去している最中、もともと人間であっただろう肉片などもあったが、あまりにもそれが原形をとどめておらず、故にまったくと言っていいほどにグロさや嫌悪感は感じなかった。きっとこれは、私がおかしいんじゃないだ。

 救助した人たちは、とりあえず槍を除去した校庭に避難してもらっている。

 道の槍や瓦礫を除去しながら移動し、また大きい施設の地下シェルターを調べる。

 しばらくして別地区の部隊が次々に合流してきた。そのタイミングで夕には人間の姿に戻ってもらい、避難者を装ってもらった。まだ組織全体に通知がされていないからだ。

 夜も更けてきたころ、組織の連絡通達班から、救助完了、被害範囲、召集の連絡が来た。

 救助完了。全地下シェルターの捜索終了。地上での生存者捜索はレスキュー隊が代わってくれるそうだ。

 被害範囲。今回の槍の雨は、南区までもを巻き込む大災害で、また一部の駅が使用不可など社会インフラへの影響も大きいらしい。

 召集。私や加奈子さん、美咲さんはもちろん、組織員でない千朝と夕も含めて事件の当事者として召集がかけられた。


 とりあえず、人間のふりをしてもらっている夕を迎えに行く。

 救護班、建築班が即興でつくった、テントが立ち並んだ臨時避難区域へ行く。避難者リストを見ると、夕の名前がない。まさかカアナクが仕掛けてきたのか?! と思った瞬間、

「千夜。何かあったんですか、そんな切羽詰まった顔で」

 夕が後ろから話しかけてきた。しかし振り返っても夕はいない。

「あ、すみません。今霊体化してたんでした。今姿見せますね」

 と夕が景色から現れた。

 姿が見えた夕をすぐに抱きしめる。

「ちょ、ちょっと千夜、どうしたんですか?!」

「カアナクが仕掛けてきたのかと心配になって……ごめん、勝手に取り乱した。本題を話すよ」

 夕を離した後、連絡通達班から聞いたことを話す。

「なるほど……じゃあ中央に行くときは私は人間のふりのまま行った方がよさそうですね。誰が知っていて誰が知らないのかわかりませんから」

 それに頷き、すぐに出発する旨を伝えて夕を横向きに抱き上げる。

「千夜?! またなんで?!」

 と夕が顔を赤くしながら慌てて言った。

「いや、人間のふりするなら私が連れて行かないと……」

「く、黒ローブの余りとかないんですか?」

「残りは全部加奈子さんが持ってたから無いよ」

 と言うと、夕が大人しくしがみついてきた。

「なるべく低くお願いします。高所恐怖症なので」

 と小さく言ってきた。

 天狗でさっきも飛んでたのに高所恐怖症? と思ったが、思い出してみれば全部低空飛行をしていた。

 もとより高く跳ぶつもりはないというと、夕はほっとしたように息をついた。


 結局夕は早い段階で気絶した。しかし私の首にまわす腕は全く外れる様子がない。どれだけ落ちたくないのだろうと少し嗜虐じみた考えが浮かぶがすぐに捨てる。

 中央区に着いた。屋外の巨大な電子看板には、さっきの事件のことが大大と報道されている。

 さて、組織の建物はどこだろうかとうろうろしていると、

「おーい、千夜くん、夕! こっちだ!」

 と加奈子さんの声がする。その方向を向いてみれば、高層ビルの下に加奈子さんと美咲さんがいた。

 急いで駆け寄る。

「いま着きました。時間大丈夫ですか?」

「ああ、ぜんぜん大丈夫だよ。ちなみに千朝くんは中で待機してもらってるよ。ところで、夕はどうしたんだい?」

 と加奈子さんが何かを察したように聞いてきた。

「高所恐怖症だったみたいで、空中で気絶しちゃいました」

「お姫様抱っこは?」

 と美咲さんがニヤニヤしながら間髪入れずに聞いてきた。

 お姫様抱っこ……今気づいたな。なんだか顔が熱くなってきたような……。

「あらあらまったく」

「こら美咲。ほら、千朝くんも待ってるし行こうか。夕はまだ起こさなくていいよ。また高い所行くから」

 加奈子さんたちに案内されたのは、ビルの裏側、つまりは路地裏だ。

「ここの三十階くらいに窓があるんだけど、そこからじゃないと入れないんだよね。だからほとんどの場合、黒マントを持った人しか入れない。もし例外が発生してもちゃんと門番がいるし、上ったうえでさらに認証とかあるからセキュリティ抜群の施設だよ」

 と加奈子さんが言い、跳んで行った。それに続いて美咲さんも跳んで行く。

 夕の頭を壁などにぶつけないよう、縦に抱きかかえるようにして、思いっ切り垂直に跳ぶと、確かに一つ、不自然な窓が開いていた。その中に加奈子さんや美咲さんの姿が見える。窓枠に着地し中に入る。

 すると加奈子さんが近づいてきて、手を差し伸べてきた。

「じゃあ改めて、先日この組織のトップになった加奈子さんだ。よろしくね、戦闘班班長、不井草(ふいぐさ)千夜(ちや)!」

「は?」

 不井草千夜、今日から班長です。


 作者コメント(裏設定?)

 千夜が夕の高所恐怖症を知らない描写があります。

 幼馴染なのに知らないの? と思うかもしれませんが、そもそもtomorrowでの観光地と言えば自然豊かな北区か、海のある西区、海外フェアなどをやっている南区など、高い場所がありません。

 一応電波塔(名前未定)もありますが、単純に三人が三人で行ったことがないので、千夜千朝は夕が高所恐怖症だということを知らないのです。

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